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「おい!何してんだ!!」
男の声が高架下に響き、こちらに駆け寄る音がした。最初は暗くて誰かわからなかったが、藤乃宮さんの背後、俺の正面に回ったことでその顔を確認できた。
「え…」
それは、藤乃宮さん直属の部下の佐藤さんだった。佐藤さんは藤乃宮さんにしがみつき、全身の力で引っ張りながら叫ぶ。
「やめるんだ!早く離れろ!美琴!!」
佐藤さんの力で、何とか藤乃宮さんは離れた。離してすぐ、佐藤さんは藤乃宮さんの手を背中に回して固め、向かい側の壁に押し付ける。
俺は全身の力が抜けて、そのままずり落ちるように腰を落とした。
「谷くん!大丈夫か!?」
藤乃宮さんを押さえつけながら、佐藤さんがこちらに向いて問いかける。俺は噛まれていたプロテクターを確認する。傷はついているが、幸い穴が空いたり千切れたりはしていないようだ。
「は…はい…」
俺はかろうじて返答する。
藤乃宮さんはしばらく壁に向かって荒い呼吸を繰り返していたが、落ち着いてきたタイミングで佐藤さんが静かに声をかける。
「ごめんな、美琴。乱暴なマネして」
「…いえ…大丈夫です…」
藤乃宮さんは壁に向かって項垂れたまま、静かに応える。背中からでも分かるその憔悴した様子に、俺はハッとした。
「あ…」
俺は、また感情に流され、とんでもないことをしでかした。改めてそれを認めると、後悔やら申し訳なさなら怒りやらが頭の中でごちゃごちゃになる。そして、それらを流すように涙が溢れ出た。
「…ごめんなさい」
涙と共に出た謝罪の言葉に、佐藤さんがこちらを振り向く。
「申し訳…ありません……」
その場で膝をつき、地面に両手をつく。2人のほうを直視できず、下を向く。流れる涙が、地面に滴り落ちていった。
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