56人が本棚に入れています
本棚に追加
「私に、ですか?」
「うん。もし色々落ち着いて、美琴が君に想いを伝えることがあったら、谷くんにはきちんと受け止めてほしいんだ」
「それは…その、藤乃宮さんと付き合えってことですか?」
「そうじゃないよ。その時に別に好きな人がいたりして、付き合いたくないと思うなら、はっきり断ればいい」
佐藤さんが前方に視線を戻したため、俺はその後頭部に向けて言う。
「あの、それなら、どういう…」
「…彼女の想いをうやむやにして逃げないで欲しい。そういうこと」
「…はあ…」
「わかりにくいか。いいよ、そこまで深く考えなくて。谷くんなら大丈夫だろうから」
いまいち、よくわからなからない。だけどなぜ、佐藤さんはそこまで藤乃宮さんの事について口を出してくるのだろうか。
「あの、佐藤さんは、藤乃宮さんとどのようなご関係なんですか?」
尋ねると、車が再度発進する2、3秒の間を置いて佐藤さんが答えた。
「簡単に説明できないなあ。あの子が学生のときは家庭教師だったり、こうして運転手させてもらったりで。簡単に言えば、教育係兼サポート役といったところかな」
「その…佐藤さんと藤乃宮さんが、パートナーになることはないんですか?」
出すぎた質問だと思った。佐藤さんはすぐに答えない。だけど、今までの2人のやり取りを見るに、俺なんかよりもよほど相性は良い気がするのだ。
「…それはないな。僕はごく普通のベータだし。一応、僕は母と共に藤乃宮家に使われている身だからね。歳も離れてるから、あの子は僕を親戚の兄貴くらいの感覚でしか見てないよ。少なくともあの子の方は」
「そう…ですか」
そういうものなのか…モヤッとしているが、これ以上深掘りしても失礼だろう。俺は外に視線をそらし、流れていく夜の景色をぼんやり眺めた。
人生で一番、疲れる休日となってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!