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「ねえ、僕、間違ってないよね?」
私の前で座り込む少年の頭を、私はやさしく撫でてあげたい衝動に駆られるが、私にはそんなおこがましいことは許されていない。
彼に出会った当初よりは随分大きくなったものの、私の前では小さく丸められたその背中が、ひどく頼りない。
私と出会ってからの習慣通り、学校から帰るなり私に水をやり、その日の出来事を話す彼は、最近では日々その表情には悲しみと苦しみの色が、一日ごとに濃く滲んでゆく。
友人との諍いの中で自分に自信が持てなくなったらしい彼は、幼い頃から消えることのなかった生き生きとした色を、日々薄めてゆく。
「僕、どうしたらいいんだろうね」
小さな声が、狭い裏庭に響く。
その声に私の指先はふわりと揺れる。
彼がふと足元から私へと視線を上げた時、遠くでごうと風が鳴る。
そして、その数秒後、私の四肢が、風に吹かれて振るわされる。
私の四肢は風と共に、彼の体へ覆いかぶさり、彼のすべてを包みこむ。
たよりない私の指先が、彼の首筋に触れたのだろう。
彼はくすぐったそうに肩を揺らしてふふっと笑う。
その笑い声に、張り詰めていたあたりの空気が、途端に柔らかなものへと変わる。
私の指先すら優しく包み込む風に、私は体のすべてを許す。
その風のやさしさに、目の前の少年の笑顔はいつの間にか出会った頃のような綺麗なものへと、姿を変えていた。
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