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上がり框の端に立ち、土間で駄々こねる我儘っ子を見下ろす。
呆れた。たった半日遊びに行くだけの男を何故そこまで甘ったるく見送らなければならないのだ。嫉妬して・心配して・もっと束縛して。顔に大きく書いてある。あからさますぎてこっちが恥ずかしい。
「ちょっとぐらい寂しがれや……」
「今日は寂しくない」
「今日は?」
しかし。
「おいで」
しょうがないと項垂れつつ、幸せかと問われれば頷いてしまう。フードを取って両手を広げ、悲しそうに佇む身体を抱き締めてやる。
「引く手あまたかどうかは知らないが、心から大切だと思える相手を見つけたらそっちを選べばいい。俺は応援する」
「は……!?」
「もしかしたら今日会う子たちの中にいるかもしれないぞ。新しい……運命の相手とやらが」
「お、っ、まえ、さぁ……なんでそういうこと言うかなぁっ……!? 俺がっ、俺が、そういう発言でっ、どんだけ、傷つ「話を最後まで聞け」
人生は短いようで長い。
「遅かれ早かれどちらかの想いが冷めて、もう一方が置いていかれるんだと思う」
「はあ……!?」
「お前はきっと置いていく側だ」
いつか捨てられたって引き止めない。無理矢理束縛して恋敵の芽を摘む気もない。
ただし、
飽きて振られる最初の一瞬から。相手が新しい誰かと、また別の誰かと、そのまた次の誰かと愛し合い別れ行く最後の一瞬まで。未練がましく想い続ける羽目になるのは俺の方に違いない。
「寂しいな……」
「っ……!」
「お前に置いていかれる日が一番寂しい」
ずっとずっと。嫌いなら困って好きなら抑えた。そう簡単には変えられない奥手な性根が相手の不安を煽るのは分かっている。だけど強引なこいつの隣では、つられて素直になれていると思うので。
抑える必要のなくなった愛情を目一杯、抱き締めた部分から注ぎ入れる。
「いつも通り楽しんでこい。調子に乗って飲みすぎるなよ」
伝われ。「好き」の二文字では足りんのだ。
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