前編 1.序章(五月視点)

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 4月26日。月曜日。  その日も普段通り、うるさい目覚ましによって起こさた。そして自分の誕生日だということも忘れ、決まり切った朝に決まり切った昼を過ごしていたはず。  ❖ ❖ ❖  2・3・4限の授業をこなし、昼休憩も終わった空きの5限。教員室にて、次の授業に使う資料の整理をしていると、引き戸を開けて入ってきた男子生徒の姿が目に止まった。  いや、ここは男子校だからわざわざ生徒と言うのもおかしい。とにかく、とある生徒が教員室に来たのである。今は授業中のはずだから……早退の知らせだろうか。それとも空きコマのある最高学年生なのだろうか。  自分の授業では見かけない生徒だったので、まさかこちらに来るはずはない。資料整理の手を止めず、そんなことを考えていた。 「先生」  だから席の横に立って呼びかけられた時は驚いた。はっきり言って自分、現代文以外についてはとんと詳しくない。委員会や生徒会について質問されても、科目担当の俺には答えられないので困る。  そんな不安を胸に、 「……どうした」  ゆえに返答は仕方なしに。 「あの、僕5限空きコマで……生徒指導室のパソコン使おうとしたんですけど、鍵使っても開かなくて……」 「はあ、それは……」 「なんか、ドアの上の部分に物がつかえてるみたいで……」  なんだ、そういうことか。意外と簡単な案件にホッと一息ついた。しかしなぜわざわざ奥に座っていた俺に頼み込んできたのか。と、よぎった疑問を口に出す前に、 「用務員さんの所にも行ったんですけど、いなくて……僕じゃドアの上まで手が届かないんです。先生男だし身長高いから、なんとか開けて頂けませんか?」  わざわざ相手が説いてくれた。 「えっ…と……」  室内を見渡すと、ほとんどの男性教員が席を外していた。残るは俺か女性教員か年配教員かといったところ。  ……なるほど。  指導室まで行ってドアをこじ開けるのは、図らずも俺の役目だったらしい。
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