1579人が本棚に入れています
本棚に追加
❖ ❖ ❖
「あれです。あそこに何か引っかかっていて開かないんです。先生なら届くと思って……」
到着して見ると、ドアの上に金具のようなものが挟まっていた。俺の身長は177cmと、特別低いわけでも高いわけでもないが、いかんせんドアが大きすぎて取れない。なんとか指先が届いても、肝心の障害物は頑丈に挟まっている様子。
「………………」
………何か、三脚的なものが必要だなこれは。
そう思いながらあたりを見回すが、足場になるようなものは無い。まったく……どうしたらこんなところにこんなものが引っかかるのか。届かない悔しさを隠すように、半ば諦め気味でトライし続けること1分。
「…………あ、」
案外早くそれはとれた。
「とれたぞ。どうだ、開くか……?」
「開きました! 大丈夫です! ありがとうございます!」
「じゃあ、俺は戻るから……」
問題は無事解決したようだ。良かったと安心し、教員室に戻る体勢にはいる。しかし生徒の方にはまだ問題があるようだった。
「あの、僕指導室使うの初めてで、使い方とか……どこに何があるかとか、分からなくて……」
「……………」
………はあ。どこに何があるかは自分で探せば見つかると思うのだが。いや、それより俺すらどこに何があるかなど把握していないのだが。
違和感を感じつつも、そういえば彼、パソコンを使いたいとか言ってたような……記憶を辿って要望に応える努力をしてみる。
「あぁ、パソコンか。それなら奥の机に………」
ここで指導室を覗き込んだのがいけなかったのか。いや、多分もっと前から狂っていたとは思うのだが、遅くとも背中を押される前に去るべきだった。
「っ……、な、」
可愛らしい面に似合わず強い力だった。背後から加えられたそれによろめいて、前のめりになる。流石に転びはしなかったが、指導室内に押し込まれる形となった。
やっと不審に思い、「何するんだ」と振り返ったが、当の相手は素知らぬ顔。
今考えて見れば当たり前だ。勘づくのが遅すぎたのだ。奇妙さを感じ取った時にはもう、後ろ手に鍵をかける音がしていた。
最初のコメントを投稿しよう!