前編 1.序章(五月視点)

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 ❖ ❖ ❖ 「あれです。あそこに何か引っかかっていて開かないんです。先生なら届くと思って……」  到着して見ると、ドアの上に金具のようなものが挟まっていた。俺の身長は177cmと、特別低いわけでも高いわけでもないが、いかんせんドアが大きすぎて取れない。なんとか指先が届いても、肝心の障害物は頑丈に挟まっている様子。 「………………」  ………何か、三脚的なものが必要だなこれは。  そう思いながらあたりを見回すが、足場になるようなものは無い。まったく……どうしたらこんなところにこんなものが引っかかるのか。届かない悔しさを隠すように、半ば諦め気味でトライし続けること1分。 「…………あ、」  案外早くそれはとれた。 「とれたぞ。どうだ、開くか……?」 「開きました! 大丈夫です! ありがとうございます!」 「じゃあ、俺は戻るから……」  問題は無事解決したようだ。良かったと安心し、教員室に戻る体勢にはいる。しかし生徒の方にはまだ問題があるようだった。 「あの、僕指導室使うの初めてで、使い方とか……どこに何があるかとか、分からなくて……」 「……………」  ………はあ。どこに何があるかは自分で探せば見つかると思うのだが。いや、それより俺すらどこに何があるかなど把握していないのだが。  違和感を感じつつも、そういえば彼、パソコンを使いたいとか言ってたような……記憶を辿って要望に応える努力をしてみる。 「あぁ、パソコンか。それなら奥の机に………」  ここで指導室を覗き込んだのがいけなかったのか。いや、多分もっと前から狂っていたとは思うのだが、遅くとも背中を押される前に去るべきだった。 「っ……、な、」  可愛らしい面に似合わず強い力だった。背後から加えられたそれによろめいて、前のめりになる。流石に転びはしなかったが、指導室内に押し込まれる形となった。  やっと不審に思い、「何するんだ」と振り返ったが、当の相手は素知らぬ顔。  今考えて見れば当たり前だ。勘づくのが遅すぎたのだ。奇妙さを感じ取った時にはもう、後ろ手に鍵をかける音がしていた。
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