前編 1.序章(五月視点)

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 一体彼は何がしたいのか。どうして鍵をかけた。指導室の使い方が分からないはずでは。次々と浮かんでくる疑問に眉を寄せる。 「どうしたんだ。なんで鍵を「俺あんたのこと嫌いなんだよね」  ────………  は、  嫌い………?  さらっと放たれた悪口に戸惑う。 「っ……」  しかし、あまり時間を要さずに思考は再開された。自分で言うのも悲しいが、俺を好きだなんていうやつに出会ったことがない。だから逆の台詞には驚かなかっただけである。  そもそも俺は……この生徒のことを知らないんだが……まさか知らない人間にまで不快感を与えていたというのか。もしそうだとしたら、それはなんというか……重症だな……  けれど「自分を嫌い」ということが今の状況にどう関係しているのか分からなかった。嫌いなら何故近づいてくる……? (まさかリンチ……!?)  いや、だが相手は俺よりずっと小さい。  うーん……分からないな。  記憶を遡って客観的に物事を見てみると、「うーん」などとほざいていた過去の自分をやはり数発殴り倒したい。  せめて何か聞け。その生徒に。  怒れ。どういうつもりだと。  しかしそんな未来の諭しも虚しく。あの時の俺はノロノロと状況把握に手間取っていた。
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