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「う……」
「新名先生……!?」
しかし、3階に上がるための階段に差し掛かったとき、俺を呼び止める人間が現れた。
珍しい。誰だろう。ぎこちなく振り返ったそこには、驚いてこちらを見つめるジャージ姿の男性が。
「ちょ……ッ!? その怪我どうしたんですかっっ!? ボロボロじゃないすかっ!!」
物凄い勢いで走って来た彼に、勢いよく肩を掴まれた。この人はたしか、今春から入った、体育科の………
「いえ…ちょっと、知らない…生徒に、」
「はぁ!? ちょっとってレベルじゃないっすよこれ! 早く病院行かないとっ!」
「は…はい…、それで、今…荷物を取ってこようと思って、教員室に……」
「そんなの俺取ってきますよ!! てか病院まで送りますって!!」
「え…っ、あ、いえ…大丈夫です…ひとりで、」
「ダメですよっ!! ちょっと待っててください、今タクシー呼ぶんで!」
さすが体育会系………
勢いがすごい。断る隙さえ見つからない……
「いや本当に大丈、「あ、すみません! ○○営業所で合ってますか? 今から1台お願いできます? 場所は、」
驚くほど気の利く人だ。しかしこんなにボロボロで歩いていたら、それこそ助けてくれと主張しているようなものかもしれない。
……すまない。
「正門じゃなくて裏門です。はい。はいそうです。至急よろしくお願いします! はい! では!」
「っ………」
「新名先生、今一応裏口の方にタクシー呼んだんですけど大丈夫ですか? 歩けます? 無理そうならちょっとここで待っててください。俺今すぐ荷物取ってきますんで!」
「あ……あ…りがとう、ございます……あの、でも…本当に大丈夫ですよ……意外と、歩けますし、」
「教員室と裏門逆方向じゃないですか! 余計に動いちゃダメっす!」
「あと…退勤チェックとかも、」
「それも俺がしときますから。先生はここで待っててくださいね!?」
「ぇ…、あ……」
いや本当に、まるで疾風のよう。呼び止める間もなく、走って行かれてしまった。
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