1568人が本棚に入れています
本棚に追加
/810ページ
(五月視点)
────────…………
まるで時が止まっているかのような静寂。その中に時折、鳥の囀りや車の走行音が混じる。4月ももう下旬であるというのに、布団から露出した肌を掠める隙間風はひんやりと冷たい。
ああ、この時間がずっと続けば良いのに。
そうすれば何も起こらない。
そうすれば何もしなくて済む。
そうすれば────……
そんなことを考えていられるのも束の間。気持ちよく微睡んだ空間をぶち壊すように、アナログ目覚ましが悲鳴に近い声で叫び出す。脳内に電流の如く鳴り響くそれは、曖昧な意識を現実へと引き戻し………
「っ………」
慌てて手を伸ばす時刻、朝の5時半。俺、新名五月の朝は早い。
「…ぅ………」
無慈悲な目覚ましを睨みつつ、のそのそと身体を起こす。まだ冴えきらない心身を奮い立たせ、顔を洗いに行く。やっと頭が冴えてきたところで、今度は台所へ向かい、そうしたら次は……
………どうでもいい。
それより、朝に弱い自分がなぜ早く起きているのかといえば、ごくごく普通のこと。仕事に遅れないためであった。
職場である学校までは電車で約1時間ほどだが、少なくとも7時半には到着しなければならない。それに加え、朝のラッシュで立ち続けるのは辛い。だから5時半ギリギリに起きて支度をし、6時24分発の電車を捕まえる日々だった。
何というか、まぁ、流石に4時前起きとまではいかないが……低血圧の自分にとっては十分ハイレベルな朝だった。
最初のコメントを投稿しよう!