0人が本棚に入れています
本棚に追加
夫が他界しホームセンターでパートを始めたばかりの美里は不思議な現象に襲われた。その日はお盆休みで、早朝品出しは一人でやるしかなかった。薄暗い広大な店内に聞く同僚も居なく、分かりやすい物から並べていった。くるくる巻いたお風呂の蓋があり、突然夫が病になる前にここで、お風呂の蓋を買おうとした時に夫が「まだ要らない磨いて今のを使ったら良いんだから。」と言い出し、美里は「汚くなったし、お風呂の蓋ぐらい買えるでしょう。」と取り合いになり、しまいにはエキサイトしてきて、二人とも声が大きくなり、店員やら店長まで駆けつけ、ガードマンまで走ってきて、ふと二人で我に返り、夫も恥ずかしくなったのか、買いますと謝罪した。ツマラナイ思い出にふけっていたら、何処かの売場からオルゴールの音が聞こえてきた。そうして最後の蓋を並べようとしたら重くて持てない巻いてあるタイプではなく、先程まで並べていたのと同じ大きさなのに動かない。時間もないので、台車に乗せたままにして、バケツやゴミ箱を並べ始めた。お線香やら蝋燭を陳列しながら、何だか、何であんな事で喧嘩してしまったのだろうかと、もう二十年も前の出来事で店長も店員も美里の事件は知っている人はいなく、バカな夫婦の事件簿の一つでしかなかったが、オープン一時間前になり、従業員も続々と出勤してきて寂しさは消え、店内も明るくなった。洗剤やら重いペンキも並べ終え、アナウンスが入り朝礼が始まり、あの重いお風呂の蓋をと思い、朝礼が終わり、バックヤードのサトシ君に「あのお風呂の蓋重くて、誰か並べたくれたのかしら?」と聞いたら「今朝はお風呂の蓋は入荷してないよ。」と言われて愕然とした。亡夫が思い出させたのか。今では笑って言えるが、あの重さは夢だったのか分からないが、翌朝入荷していた。そういえば、室内改装してからお風呂もリフォームしたので、蓋も新しくなったが、お風呂もフィットネスのに入るから蓋の傷みもなく、あの頃売ってなかった蓋の溝洗いやすいタワシも売っていて、買い替えることもなく、未だ新しい夫も存在しないままである。まだ私にまとわりついてストーカーする霊なのか。世の中は分からない事だらけである。
最初のコメントを投稿しよう!