番外編:桧原樹には秘密がある③

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番外編:桧原樹には秘密がある③

 ブルーシートに戻ると、すぐさま悠ちゃんが駆け寄って来た。 「樹くん、お疲れさま! 手、大丈夫!? 痛いところない!?」 「うん。大丈夫だよ」  握力は一般男性の平均以上あるので全く問題ない。 「桧原さん、本当にありがとう。助かったわ!」  俺の手のひらを穴が開くほど見ている悠ちゃんの後ろから西牧さんが顔を出す。 「いえ。無事に終わってよかったです」 「本当、樹くんの手が無事でよかった……」 「悠ちゃん、そろそろ次の競技始まるよ」 「ハッ! しまった! 次騎馬戦だから行ってくるね!」  すばやく立ち上がった悠ちゃんは、急いで騎馬戦に出るためにグラウンドに出た。悠ちゃんの騎馬は前が西牧さんで、左右を支えるのは坂宮さん夫婦だ。  俺の予想通り、悠ちゃんは白組のはちまきをすべて奪い取って赤組を勝利に導いた。さすがに赤組の人たちも驚いていたけど、というかちょっと引いていたけど、俺にとっては悠ちゃんが楽しそうにしているのが一番大事なので、笑顔でブルーシートに戻ってくる姿を見ることができてよかった。  最後の種目のチーム対抗リレーでアンカーを務めた悠ちゃんは、最下位からのごぼう抜きで見事一位に輝いた。  結果、去年白組に僅差で負けた赤組は、五十点以上の差をつけて白組に勝った。ちなみに個人得点で優勝したのは悠ちゃんで、歴代最高得点だと役員の西牧さんが泣いて喜んでいた。  運動会のあとは役員主催の飲み会があり、家に帰るころには夜の十時を過ぎていた。 「あー、楽しかった! けど、疲れたね」 「うん。悠ちゃん、大活躍だったね」  家に帰ってすぐにお風呂に入る。脱衣所で着替えたあと、タオルで髪の毛を拭いている悠ちゃんに声をかけた。 「悠ちゃん、ここ座って」 「ん? どうしたの?」 「髪の毛、乾かしてあげる」  洗面所に置いている椅子に悠ちゃんを座らせて、ドライヤーのコンセントをさす。 「樹くんが……乾かしてくれるの?」 「うん。今日は疲れたでしょ」  悠ちゃんの大きな目がさらに大きくなる。ドライヤーのスイッチを入れて後ろから風を当てながら、手櫛で髪をといていく。 「熱くない?」  一旦ドライヤーを離してから声をかけると、悠ちゃんの肩がビクッと震えた。 「だい、じょうぶ……」  鏡越しに悠ちゃんの顔を見ると、少し赤くなっている。やはり熱かったのだろうか。それともお風呂上がりだからかな。  さきほどより少しドライヤーを離しながら乾かしていく。つやつやの髪は触り心地がいい。  十分ほどで完全に乾いたので、ドライヤーのスイッチを切った。 「終わったよ」 「うん……ありがと」  そのあと二人で歯を磨き、リビングに戻って置きっぱなしにしていた荷物を片付ける。  日付が変わる少し前にそろそろ寝ようと声をかけようとして、ソファに座っている悠ちゃんが目を閉じていることに気がついた。今日は一日中動いたので相当疲れたのだろう。 「悠ちゃん、ソファで寝たら風邪引くから寝室行こう」  肩を揺すってみるが、んん、と言葉にならない声を上げるだけで、目を開ける様子はない。寝てるならいいか、とソファに座っている悠ちゃんをお姫様抱っこして、寝室に行こうとした。 「……いっ、樹くん!?」  抱き上げた瞬間に悠ちゃんが目を覚ました。状況を理解できていないらしく、ぽかんとこちらを見ている。 「眠いでしょ。そろそろ寝よ」 「え、あ……いや、その……」  なぜか悠ちゃんは軽くパニック状態で、口を金魚にみたいにパクパクさせている。 「う、うん! 寝る、寝る! 寝るから、えっと、降ろして……ほしいかな?」 「何で?」 「だ、だって……ほら、私結構重いし……ね、このまま二階に上がるの、大変だと思うし……」  目を左右に泳がせながら、悠ちゃんは軽く足をバタつかせる。重いと思ったことはないけど、本人は気にしているのだろうか。 「でも疲れてるでしょ」 「疲れては……いるけど、うん、大丈夫だから! 自分で歩けるから……! 本当、最近体重増えたから! めちゃくちゃ重いから!」  ジタバタしてる悠ちゃんも可愛いけど、疲れてるだろうから早くベッドに連れて行ったほうがいいだろう。 「悠ちゃん」 「は、はい……」 「俺、男だよ」  そう言うと、悠ちゃんは頬を真っ赤にして慌てて両手で顔を覆った。  そのまま二階に上がり、寝室に入ってベッドに悠ちゃんを降ろし、首元まで布団を被せる。 「あ……ありがとう」  恥ずかしそうにしているのが可愛くて、ベット脇に座ったまま頭を撫でると、さらに顔が赤くなった。 「ゆっくり休んでね。おやすみ、悠ちゃん」  小さく開いた唇にキスをして、もう一度頭を撫でた。  
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