第134話

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第134話

 ビーチで金閣寺とついでに銀閣寺をつくったあとは、主婦三人で夕飯を作った。別荘にあった冷蔵庫を確認すると、とんでもない数の食材や調味料が入っていた。これもすべて夏樹さんが用意したのだろう。それも高級食材ばかり。  キッチンの棚には和菓子もきちんと用意されていたし、本当重ね重ね言うけど、抜かりないな、あの兄。と思った。  旦那三人からも夜ご飯は大好評だった。今度、夏樹さんに食材を買った店を聞いておこう。近所のスーパーには売っていないものばかりだったし。  夜は自由に過ごす予定だった。私と樹くんは二階の自分たちの寝室で和菓子を食べていた。寝室といっても、ホテルみたいにテーブルもソファもる。坂宮夫婦は一階のリビングでのんびりテレビを見ており、西牧さん夫婦は先に浴室に向かった。  樹くんが嬉しそうに和菓子を食べている姿を見ているだけで、白ごはん七杯は食べられそうだな、などとのんきに考えていると、突然部屋が真っ暗になった。 「何!? 停電!?」  すぐにテーブルに置いていたスマホを手探りで見つけ、ライトをつける。 「樹くん、無事!?」 「うん。このみたらし団子、美味しいよ」  よし、和菓子を食べ続けられるくらいには無事らしい。 「真っ暗だから竹串には気をつけてね。あとブレーカー見てくる」 「悠ちゃん」 「ん?」 「俺も行く。一人じゃ、危ないでしょ」  暗くて樹くんの顔はよく見えないけど、樹くんが最高にかっこいいということだけはよくわかった。  スマホのライトを頼りに二人でブレーカーを探しに行く。他の四人はどうしているだろうか。坂宮夫婦は一階で西牧さん夫婦は浴室だった。涼風たちはともかく、浴室で停電って最悪だよね。それでも一人一人バラバラになっているわけではないので、大丈夫だとは思うけど。  一階の玄関にあるブレーカーを確認する。ブレーカーは落ちていないので、電気の使いすぎというわけではないらしい。となると、原因がわからないので、復旧するのを待つしかない。  それにしても一階に降りてきたというのに、涼風たちにも西牧さんたちも会わなかった。この別荘は引くほど広いので、どこかの部屋に避難しているのかもしれない。 「ねえ、ちょっと涼風に電話してみていい?」 「うん。みんな大丈夫かな」  ブレーカーが落ちていないということは、おそらくこの辺り一帯で停電が起きているのだろう。なら、非常用電源に切り替わっているはず。長時間は無理だが、短い時間ならスマホを使うことができる。 「もしもし、涼風?」  涼風に電話をかける。三コール目で電話が繋がったと思ったが、ガサガサと雑音が聞こえるだけだった。しばらく声をかけ続けたが、涼風の声が聞こえることはなく、諦めて電話を切った。 「だめ。なんか変な雑音しか聞こえなかった」 「電波が不安定なのかな。とりあえず蝋燭とか懐中電灯探したほうがいいんじゃない?」 「そうね」  夏樹さんが樹くんの写真を撮りたいがために買ったこの別荘にそんなものがあるかどうかはわからないが、このまま何もしないよりはいいかもしれない。 「樹くん、暗いから気をつけてね」  懐中電灯や蝋燭があるとしたら、リビングか各部屋の収納スペースかあるいは洗面所か。 「うん。悠ちゃんもあんまり離れないでね」  なるべく離れないように二人で懐中電灯や蝋燭を探す。しかし三十分経ってもそれらしいものは見つからず、また涼風たちとも会わなかった。 「ないね」 「うん。それに涼風たちとも会わなかったね」  懐中電灯は諦めて二階に行き、それぞれの寝室を見て回ったが、荷物はあるのに涼風と西牧さんたち夫婦はどこにもいなかった。 「悠ちゃん、一回、部屋に戻ろうか」 「そうだね」  部屋に戻りソファに座ると、とたんに世界から音が完全に消えたように静かになった。まるでこの世界に私と樹くんの二人しかいないような感じだ。  ……え? それって最高じゃない?  この世界に私と樹くんの二人だけとかそんな嬉しいことある? 真っ暗じゃなかったらもっと最高だったんだけどな。頼れるのはスマホのライトだけだし。  でも本当に涼風たちはどこに行ったんだろう。もしかして外に出たのかな? 私たちに何も言わずに四人で? リビングにいた涼風たちはともかく、お風呂に入っていた西牧さん夫婦が外に出る可能性は低いような気がする。 「悠ちゃん!」  真っ暗な世界で自分の世界に入り込んでいると、突然隣にいた樹くんが私の手を掴んできた。  いくら真っ暗だっからって、こんな緊急時に……などと照れていると、樹くんの手が震えていることがわかった。それもひどく冷たい。 「樹くん、どうしたの?」 「さっき……外に何かいた」 「え?」  窓の外に目を向けるが、暗くてよく見えない。もしかして涼風たちかな? ここは二階だけどボルダリングの要領で壁を登れば、上がって来れなくもない。涼風たちではなくても、外の状況を確認するのはいいかもしれない。    そう思い、ソファから立ち上がった。
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