第13話

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第13話

暑い日が続く中、昼間の一人の寂しさを紛らわすべく、今日は実家から持ってきたかき氷機を使ってかき氷を食べながらテレビを見ていた。 シロップはいちご、ブルーハワイ、レモンに抹茶、練乳など種類は盛りだくさん。樹くんもかき氷が好きなので、この前スーパーでたくさん買っておいた。 「ってかブルーハワイって何味?」 「レモンシロップは初めて食べたけど美味しい」 など独り言を言いながらテレビを見る。仕事を辞めてから間違いなく独り言が増えた。テレビでは今年の上半期イケメン芸能人ランキングの予想が発表されていた。 「今年の上半期イケメン芸能人ランキング、第一位はこの人!!」 スタジオにはランキングの十位から一位にランクインした芸能人の似顔絵と名前が載っているボードがあり、司会者のアシスタントが一位のボードの剥離紙をめくった。 「人気俳優の河西玲斗さんです!!」 剥離紙をめくったあと、 画面は一位の俳優さんのインタビューに移り変わったが、残念ながら私はこの俳優さんを見たことがなかった。 学生時代はよくみんなでドラマの主演の誰々がカッコいいとか、最近出たモデルがイケメンとか、どこのアイドルグループの誰が好きとか、そういう話で盛り上がっていたのに。いつのまにか全くついていけなくなってしまった。 「まあ、でも樹くんがいるしね」 というか樹くんのほうがイケメンだしね。そういえば樹くんはあれだけのお顔を持ちながら、芸能界にスカウトされたことはないのだろうか。 今テレビに映っている俳優さんも、十代のときに街でスカウトされたと話している。 樹くんくらいイケメンならスカウトされていてもおかしくないと思う。もし芸能界に入ってたら何してたんだろう。俳優か、モデルがアイドルか。背が高いし脚も長いからモデルかな。樹くんが雑誌の表紙を飾ってたらまず間違いなく三冊は買う。 いや、たとえページの隅っこにしか載っていなかったとしても三冊は買うな。 もしも映画に出ていたら毎日映画館に足を運ぶし、ドラマやテレビ番組に出演していたら必ず毎回録画して、永遠に家で再生している自信はある。 ライブとかやるならたぶん全ステするし、完全なる追っかけになってるだろうな。などと考えながらかき氷を食べ終え、家事をしているうちに樹くんが帰ってくる時間になった。 今日の夜ご飯であるきのこの和風パスタを食べたあと、二人でリビングのソファに座って紅茶を飲みながらテレビを見ていた。 するとたまたま見ていたバラエティ番組に、今日のお昼に上半期イケメンランキング一位に輝いた俳優がゲストとして出演していることに気がついた。 「ねえ、樹くんって、芸能界にスカウトされたことある?」 まあ、あったら芸能界に入ってるよね。イケメンだからって全員スカウトされるわけじゃないだろうし。 「あるよ」 まさかの返答に危うく紅茶を吐き出すところだった。 「あるの!?」 あるんかい! 「それがどうかしたの?」 「あ、いや、このゲストの俳優さんが、お昼に出てた番組で、スカウトされて芸能界に入ったって言ってたから、樹くんもあるのかなって」 私の中では、この人が全人類顔面クオリティ大会の優勝者だしね。 「うん。たしか十二歳くらいのときと、十八歳のときに」 まさかの二回もスカウトされていたなんて。でも今普通に就職してるってことは、スカウト断ったのかな。 「芸能界には入りたくなかったの?」」 「うん。だって俺、知らない人と握手とかできないし 」 スカウトを断った理由が可愛いと思うのは私だけか? というか、知らない人と握手はできないのに、私とは手を握れるって何か特別な感じがあってすごくいい! いや、夫婦なんだから当たり前なんだけど。 「それにもし俺が芸能界にいたら、悠ちゃんと会えてないかもしれないよ」 んんんん!? 何だ、何なんだ、この可愛い生き物は!! しかもしれっと真顔で言うからタチが悪い。からかってるとか冗談とかじゃなくて、樹くんは素でこういうことを言ってくる。その度にに私は良い意味で胸をえぐられる。えぐられるほど胸ないけど。 どこまで私のHPを減らせば気が済むんだ……! 恥ずかしさのあまり一人で顔を両手で覆い、樹くんに背を向けて荒くなった呼吸を整える。 「あ、ねえ。和菓子特集やってる。悠ちゃん、和菓子特集……!」 人の気も知らないで、樹くんは私の肩を軽く叩いてくる。今は和菓子特集どころじゃないわ!!  しばらくの間、テレビも樹くんの顔を見れなかった。  
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