第1話

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第1話

待ちに待った日曜。 今日は樹くんの休みであり、前から一緒にデパートに行く約束をしていた。最近出来たばかりのデパートで、今日までギリギリオープンセールが行われている。 欲しいものはたくさんあるが、一番の目的は掃除機だ。これを買うため樹くんに車を出してもらい、二人で朝からデパートに向かった。 「掃除機だっけ? 欲しいって言ってたの」 デパートに着くと今日がセール最終日あるせいか、店内は結構な数の人で溢れかえっていた。 「うん。実家から持ってきたやつ、音がうるさいし吸引力もあんまりよくないの」 嫁入り道具だなんだと言って無理やり実家から持って行かされた掃除機は、古いせいでとにかくうるさいし、肝心のゴミを吸う力が弱い。 掃除機をかけるたびに車が走っているのかというほど大きな音がするし、吸引力が弱いせいで何度も部屋を往復しなければならない。 家電コーナーにつくと、やたら目立つ赤いハッピを着た店員さんが数人おり、お得な商品の演説をしたり、お客さんに商品の使い方を説明したりしていた。 私の目当ての掃除機はまだ残っているだろうか。 「あ、あれじゃない? 前にチェックしてたの」 樹くんが指差す先を見ると、ネットに掲載されていた目当ての掃除機があった。 「そうそう! あれ」 型落ちしたものではあるが、音は静かめだし何より吸引力が良い。部屋のカーペットに埃が残っていたら、樹くんの足が汚れてしまうかもしれない。それは死活問題だ。主に私にとっての。 だから値段は一万九千八百円と少し高めであるが、これからも使い続けることを考えればこの掃除機が一番いい。 「これ、今一番人気なんですよ。使ってみますか?」 ハッピを着たお兄さんが営業スマイル全開で、私が見ていた掃除機を近くにある家によくあるタイプのフローリングの一画を再現した場所に持って行った。 フローリングには白い粉が撒いてあり、それを吸い取ることで吸引力を比べてみたり、どれだけ音が小さいかを確認できるようになっている。 「ありがとうございます」 私は見本の掃除機を使って、粉を吸い取ってみる。音はほとんどなく、掃除機のヘッドが通った場所だけ粉が消えていく。 静かだし、何より一度ですべての粉を吸い取っている。これならこれからの掃除が楽になるし、樹くんの足も汚れずに済む。まあ、ほとんどスリッパ履いてるからあんまり関係ないけど、念には念を。 「ねえ、悠ちゃん。こっちの掃除機は?」 後ろにいた樹くんが別の掃除機を指差した。それはコードレスタイプの掃除で、商品POPには『静か!』『軽い!』『最強の吸引力!』という宣伝文句が書かれている。 掃除機自体もかなりスリムでコンパクトだ。 しかしこういうのはだいたい値段がバカみたいに高い。それもこういうセールでもたいして値下げしないのだ。 「そちらの掃除機は当店自慢の品でして、お値段は他のものに比べると少々張りますが、性能は文句なしの掃除機ですよ」 正直なことを言えば、コードレス掃除機というものに憧れはあった。いつも掃除機をかけるたびにコードの長さだの、コンセントの位置だの、気にしなければいけないことが多い。 「試しに使ってみてたら?」 試すくらいならいいか、と思い、店員さんにお願いして使ってみることにした。 使ってみてびっくり。とにかく軽い。コードレスだからどこでも使えるし、軽いから持ち運びも便利だ。もちろん静かで吸引力も素晴らしい。 欲しい。欲しいがしかし、薄目を開けてPOPの一番下に書かれている値段を見て、思わず目が飛び出るかと思った。 四万二千円……!? 掃除機に四万!? 高いにもほどがある。たしかに軽いし使いやすいけど、この値段ならさっきの掃除機でいいような気がする。 「えっと、さっきのやつで……」 「いいじゃん。それにしなよ」 樹くんは平然とそう言ってのけた。 「あ、いやでも、ほら……値段が……」 店員さんに聞こえないように、樹くんにそう言うと、 「いいよ、別に。悠ちゃんが毎日使うものだし、コードレスの方が使いやすいでしょ。それにこれ軽いし」 樹くんはそう言うと、さっさと店員さんにコードレス掃除機の在庫の確認をお願いした。 樹くんのイケメンぶりに眩暈がする。 ちょ……ちょっと待って!? 何!? 何このイケメン! 私のためにわざわざそんなことまで考えてくれてるの!? ただでさえとんでもなく顔がいいのに、そのうえ中身までイケメンなんてズルすぎない!? どうしたらそんな外見も中身もパーフェクトでいられるの!? こんな素晴らしい人、一体誰の夫だっていうのかしら!? ……私だわ。 店員さんが掃除機の在庫を持ってきてくれたので、そのままレジカウンターに向かった。 「すいません、この商品券使えますか?」 「はい、大丈夫ですよ。では残り一万二千円ですね」 お会計は樹くんが済ませてくれた。
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