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第19話
水ヨーヨー釣りを終えたあと、そういえば西牧さんの屋台はどこにあるのだうかと探していると、ちょうど射的の屋台にそれらしい顔があった。
「こんばんは」
「あら、桧原さん。こんばんは。来てくれたのね」
屋台にいたのは奥さん一人だった。旦那さんは休憩中らしい。
「良かったら射的やっていかない?」
奥さんの後ろの棚には可愛いぬいぐるみからわけのわからない人形や、誰かチョイスしたのか気になるくらい不気味な置物までさまざな景品が並んでいた。あんな不気味な人形が家にあったら、樹くん嫌がりそうだな。
……って、そうじゃなくて。私が見たいのは樹くんの射的をする姿だ。
見たい、見たい、ぜひ見たい! コルク銃を使って景品をたくさん落とす姿を見たい!
という熱いまなざしで隣にいる本人を見つめてみたのものの……。
「悠ちゃんやる?」
イケメンにそう聞かれたので、一回私がやることになり、 奥さんにコルク銃と弾を三発渡された。
一発目は真正面にあるお風呂に浮かべるひよこのおもちゃにしよう。別に欲しいわけではないが、まずは簡単に倒れそうなやつからだ。狙いを定めて引き金を引く。見事に的中し、お風呂に浮かべるひよこのおもちゃを手に入れた。
次はあのチョコーレトのお菓子が入った箱にしよう。花火を見ながら食べるのに良さそうだ。狙いを定めて引き金を引くと、見事にお菓子に的中した。
「桧原さん、うまいわね」
「ありがとうございます」
最後はあのクマのぬいぐるみにしようと思い、慎重に狙いを定めた。
「悠ちゃん」
引き金を引く前に樹くんが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「ぬいぐるみなら、あっちのウサギが可愛いと思う」
樹くんが指差したのは、クマの横に並んでいるウサギのぬいぐるみだった。私は別にクマでもウサギでもどちらでもよかったので、樹くんの要望に答えてウサギのぬいぐるみを撃ち落とした。
……いや、撃ち落とした。じゃないし。何で私が射的をしているのか、何で三発も命中させているのか。三発中二発は失敗して、最後の一発を樹くんに託すという魂胆をすっかり忘れていた。私が樹くんに射的の腕前を披露してどうする。
「桧原さん、本当に射的うまいわね。三発とも当てる人なんてそうそういないわよ」
などと、西牧さんは褒めてくれるがまったく嬉しくない。
水ヨーヨーを四つも持っているので、ウサギのぬいぐるみは樹くんに持ってもらうことなった。
クマよりウサギのぬいぐるみがいいと言われた理由はわからないが、樹くんがぬいぐるみを持ってある姿は、はちゃめちゃに可愛い。はちゃめちゃに。
背が高いとはいえ顔が童顔なので、本人には絶対に言わないが、ぬいぐるみを持つ姿がめちゃくちゃしっくり来る。射的をする姿は見られなかったが、これはこれでよしとしよう。
「あ、悠!」
突然名前を呼ばれて周囲を見回すと、射的の二件隣の屋台のあたりから、涼風がやって来た。
「涼風!」
涼風は浴衣ではなく私服のままで、隣には少し背の低い男の人が立っていた。低いとはいっても私よりは高いが、毎日樹くんを見ているとそう見えてしまう。
「来てたんだ……って、浴衣可愛いじゃない」
「ありがとう」
「涼風がいつもお世話になってます」
涼風の旦那さんは感じの良い笑みを浮かべて軽く会釈をした。
「いえ。悠もお世話になってるみたいで」
樹くんも軽く会釈をした。樹くんを友達に会わせたことは一度もなかったのでとても新鮮だった。
「花火も見ていくでしょ? 良かったら一緒に見ない?」
「いいよ」
隣で樹くんも無言で頷いてくれた。
「実はうちの旦那、この街の出身だからいい穴場スポット知ってるの。そこでゆっくり見よ」
涼風の旦那さんは少し照れたように笑っていた。
それから花火が上がる時間まで四人でのんびりと屋台を見て回ることになった。
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