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第4話
「お客様、スタイル抜群でいらっしゃいますから、何を着ても間違いなく似合いますわ!」
大げさなリアクションをかます店員に褒められながら、服を一着持って試着室に入った。今度は樹くんがソファに座って私を待っていた。
持って入ったのは白いワンピース。実は私はワンピースも白い服もほとんど着ない。なぜなら言うまでもなく似合わないからだ。
白い服というのは小柄で可愛いらしい顔の女の子が似合うもの。というのが私の偏見だ。私の身長は百六十二センチで、おまけに可愛い系の顔ではないし、童顔でもない。
よく周りからは「キツめの美人顔」と言われている。褒められてるんだか貶されてるんだかわかったものじゃない。
怒ってもないのに怒ってる? と聞かれることは度々あるし、勝手に近づきにくいと思わられて避けられることもある。学生のころなんか勝手にクラスの女ボスだと思われていたくらいだ。
何が言いたいと言うと、要するに白いワンピースなんか似合うわけがない。ウエディングドレスを着るので精一杯だ。
そんな私がなぜこの服を試着する羽目になったかというと……。
昼食のあと店内をぶらぶらと歩きながらどこの服屋に入るか考えていたところ、たまたま通りかかったこの店のマネキンが着ていたこのワンピースを見た樹くんが「これ、いいと思う」と言ったためである。
私はすぐに店員さんを呼んで同じ商品を持って来てもらい、そして今に至る。
白いワンピースといっても、Vネックに胸元からスカートの裾までボタンがついているカジュアルなタイプだったので、どうにかなるかもしれないと思っていた。
これがフリルやらレースがついたものならアウトだが、いたってシンプルだしスカート丈も長いので、ギリギリセーフだ。たぶん。
しかしながら実際に着てみるとやはりアウトな気がした。さっさと脱いで似合わなかったとかサイズが合わなかったと言って返却しよう。
そう思った矢先、
「悠ちゃん、着替えた?」
まさかのカーテン越しに樹くんの声がした。
まずい。これは出てくるのを待っている。しかもこの服を選んだのは樹くんだ。このまま脱ぐのはさすがに申し訳ない。
だからと言ってこの格好を見られるのも恥ずかしい。
どうしよう。どうすればいい?
何が正解なのかわからないまま試着室内でおどおどしていると、「開けるよー」という言葉とともにカーテンが開いた。
いや、まだ返事してないから!!!
カーテンが開くと同時に試着室の入り口を封鎖するかのように、樹くんが目の前に立っていた。白いワンピースを着た私を見ても、いつも通りの無表情を貫いている。
まずい。これはまずい。きっと樹くんも予想以上に似合ってなくて、言葉にもならないのだろう。そもそもスカートさえ普段ほとんどの履かないのに、ワンピースなんか似合うわけがない。
すまない。すまないが、それがあなたの嫁なんだ。
樹くんは無言でカーテンを閉めた。
悲しいが似合わないものは似合わないんだ。仕方ない。
いや、わかってたよ!? わかってたけどね、奇跡的に似合うんじゃないかとちょっと期待してたんだよ。まあ、鏡を見てその期待は跡形もなく散っていったけど。
一人悲しく元の服に着替えて、試着室を出て店員さんに謝りながら服を返す。しかしよく見ると試着室の横のソファに樹くんの姿がなかった。
まさか私のあまりの似合わなさに絶望して外に出て行ったのだろうか。ありえる。きっと樹くんは自分の好きな人に白いワンピースを着て欲しかったんだ。
それなのによりによって自分の嫁が、ここまでワンピースが似合わないとは予想外だったのかもしれない。
「悠ちゃん」
後ろから名前を呼ばれて振り返ると、何やら可愛いらしい紙袋を持った樹くんがいた。
「樹くん、そんな袋持ってた?」
「ワンピース似合ってたから、買っちゃった」
「んん?」
どういうことだ? ワンピースが似合ってたって、あの白いワンピースのことだよね? 似合ってたのか? あのワンピース。自分じゃ、よくわからなかったけど。
「たまにはこういうのも着なよ」
「あ、うん。ありがとう……」
私が着替えている間に買ったというのか。何というサプライズ! そして何という男前っぷり!
感動のあまり目と鼻から涙が出そうだよ。
似合っていたのかはよくわからないけど、樹くんがそう言ってくれるのが一番嬉しいから。次にデパートに来るときはこのワンピースを着て行こうと心に決めた。
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