1-0. Prologue

1/3
前へ
/237ページ
次へ

1-0. Prologue

 出社した涼花(すずか)が最初に行うことは、執務室内に朝の光を取り込むことだ。いつものように電子パネルを操作してオートブラインドを開けると、広い室内はあっという間に自然光で満ち溢れる。  地上二十八階ビルの最上階に差し込む朝日は、地上の光よりも強く眩しく感じる。涼花は高い場所からコンクリートの絨毯を眺めて、深く息を吐いた。  この週末で何度目になるかわからないほど、溜息と深呼吸を繰り返している。新卒で入社して六年目、社長秘書に配属されてから四年目ともなれば、大きなミスはしなくなっている。だから溜息の理由は、仕事のミスが原因ではない。  涼花が深い息を吐き切ると同時に、執務室の入り口からドアロックが解除される電子音が鳴った。  思わず呼吸を止めてしまう。涼花は自分の身体が強張るのを感じたが、わかったところでコントロール出来ない。  ロックの解除音の後に入ってきたのは、グラン・ルーナ社の社長第一秘書で先輩でもある藤川(ふじかわ) (あさひ)だった。 「おはよう、涼花。今日も早いね」  旭の出社にほっと息をつくと、いつもの挨拶に応える。 「おはようございます、藤川さん」 「今朝のチェック入れた?」 「まだです。私も今来たところで……。あ、コーヒー淹れますね」  その提案に顎を引いた旭は、向かい合って配置されたPCのスイッチを順番に入れていく。涼花は部屋の入り口近くにある対面式キッチンに立つと、コーヒーメーカーに豆とフィルターをセットする。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9249人が本棚に入れています
本棚に追加