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飲み物の準備をしていると、再びドアロックの解除音が聞こえた。その音を聞いた涼花は、今度こそ本当に硬直してしまう。息をすることさえ忘れてしまう。
程なくして入ってきた人物は室内にいた二人の姿を見て、
「おはよう。早いな、二人とも」
と軽快に声を掛けてきた。
「おはようございます、社長」
「……おはようございます」
二人が朝の挨拶をすると、社長である一ノ宮 龍悟がちらりと涼花の方を見た。涼花がコーヒーの準備をしていることを確認すると、いつものように低くてよく通る声に名前を呼ばれる。
「秋野、俺もコーヒー」
「……はい」
自分の勤める会社の社長であり、直属の上司である龍悟の顔をまともに見ることが出来ず、涼花は俯いたまま小さく返答した。龍悟はその様子には目もくれず、自分のデスクの傍でジャケットを脱ぐと旭に軽口を叩く。
「二人とも早いなぁ。もう少しゆっくり来てくれよ」
「どこの世界に社長より遅く出勤する秘書がいるんですか。社長こそ、もう少しゆっくり来てくださいよ」
「やだよ。これ以上遅く来ると渋滞にハマるから、俺はこの時間でいーんだって」
「じゃあ俺たちの出勤時間も変わらないですね」
唇を尖らせる旭の様子に、龍悟が声を立てて笑う。
涼花は普段から、龍悟や旭と必要以上に雑談を交わすことはなかった。聞いている分には楽しいが、頭の回転が早い二人の軽快なトークのスピードについていけず、あちこち転がる話題を追うことに疲労してしまう。
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