1-0. Prologue

2/3
9144人が本棚に入れています
本棚に追加
/237ページ
 飲み物の準備をしていると、再びドアロックの解除音が聞こえた。その音を聞いた涼花は、今度こそ本当に硬直してしまう。息をすることさえ忘れてしまう。  程なくして入ってきた人物は室内にいた二人の姿を見て、 「おはよう。早いな、二人とも」  と軽快に声を掛けてきた。 「おはようございます、社長」 「……おはようございます」  二人が朝の挨拶をすると、社長である一ノ宮(いちのみや) 龍悟(りゅうご)がちらりと涼花の方を見た。涼花がコーヒーの準備をしていることを確認すると、いつものように低くてよく通る声に名前を呼ばれる。 「秋野(あきの)、俺もコーヒー」 「……はい」  自分の勤める会社の社長であり、直属の上司である龍悟の顔をまともに見ることが出来ず、涼花は俯いたまま小さく返答した。龍悟はその様子には目もくれず、自分のデスクの傍でジャケットを脱ぐと旭に軽口を叩く。 「二人とも早いなぁ。もう少しゆっくり来てくれよ」 「どこの世界に社長より遅く出勤する秘書がいるんですか。社長こそ、もう少しゆっくり来てくださいよ」 「やだよ。これ以上遅く来ると渋滞にハマるから、俺はこの時間でいーんだって」 「じゃあ俺たちの出勤時間も変わらないですね」  唇を尖らせる旭の様子に、龍悟が声を立てて笑う。  涼花は普段から、龍悟や旭と必要以上に雑談を交わすことはなかった。聞いている分には楽しいが、頭の回転が早い二人の軽快なトークのスピードについていけず、あちこち転がる話題を追うことに疲労してしまう。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!