第1章

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 普段と何も変わらない学校。普段と何も変わらない教室が、いつもと違って見える。先生がチョークで黒板に文字を書くときのコツコツとした音も、クラスメイトの小さな息遣いもなぜか空虚に聞こえた。  いったい何が起きているのだろう。考え込んでいると右肩をつつかれた。ミユだ。 「何、ぼーっとしてるの? 大丈夫?」と小声で訊いてくる。 「大丈夫。何でもない」と答えるとミユは、「そう」と言って前を向き直った。  そのすぐ後、ユージが「先生」と言って手を挙げた。 「どうかしましたか?」と先生が訊くと、ユージは「トイレに行ってもいいですか」と尋ね、先生が頷くと黙って席を立って教室を出て行った。  私の違和感は、彼の死から来ているに違いないのだが、これから起きる彼の死に関わる出来事について、予想がつかないのはなぜだろう。  過去の体験では、予感した死の原因から結末までを見通せたはずなのに、今回は見通すことができないのだ。  私は、これまで体験したことのない予知について、受け入れられないほどの違和感を覚えた。  しばらくしてユージが席に戻るけれど、違和感がなくなることはなかった。むしろ時が経つごとに違和感が大きくなっていく。  私は、はらわたが腐ったような異様なにおいを感じた。 .
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