秘密道具『独裁スイッチ』についての考察

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秘密道具『独裁スイッチ』についての考察

 この道具は、使用者の『利己的観念(りこてきかんねん)』を満たすことに、最も()けている未来道具と言えるだろう。  なぜなら、主観により『邪魔』と判断した存在を世界から完全に抹消することができるためである。  人生における障害はもちろん、学校の課題や、人間関係の悩みなどという些末(さまつ)な問題も、所詮(しょせん)一人分(・・・)』であり、世界を狂わす大きな問題から、矮小(わいしょう)且つ個人的なものまで、あらゆる艱難辛苦(かんなんしんく)(まぬが)れることが可能だろう。  しかし、この道具についての問題点を考えたとき、最も重要視すべきことは、倫理を無視した規格外の性能などではない。  この道具の最たる問題点とは、この道具が『道具(・・)』であることと考察する。  道具とは、人間が使い、万人から認められたモノを指す。  つまり、未来において『道具』と呼ばれる独裁スイッチは、一度手にしさえすれば、誰でも(・・・)使えてしまうのである。  (かたよ)った主義や思想を(おも)んじ、唱え、またそれらを盲信(もうしん)する者の手に渡ることとなれば、人類が絶滅することも覚悟しなければならなくなる。  なぜなら、仮に『誰にも(とが)められない確立された主義』や『人類全てが快諾(かいだく)できる思想』が既に存在するのであれば、宗教や主義主張の対立、国家間の戦争などが起きる余地がないためである。『闘争』は人間の本性であり、発展のきっかけであり、恣意的(しいてき)思考から編み出された選択の歴史の結果と言える。  すなわち、これを逆説的に捉えれば、そのような『恒久的(こうきゅうてき)世界平和(せかいへいわ)』が実在せず、また現段階で、『闘争』の他に人類が飛躍的(ひやくてき)に発達できる(すべ)見出(みい)だせていない以上、この道具は、使用者にさえ自棄(じき)(はら)ませてしまう。  この道具における『限界』とは、主観のみの独裁は孤高となることで真価(しんか)を発揮できるが、さりとて『人間』という生物は、完全な孤高(ここう)永劫(えいごう)望むことは(かな)わず、加え生存すら難を極めるという、ヒトの本質的な性質との『矛盾』を宿していることにある、といえるのではないだろうか。  ——現代では有用だが、未来においては『恒久的(こうきゅうてき)世界平和(せかいへいわ)』などという人智(じんち)を超えた理想が実現し、『不要な道具(・・・・・)』となっていることを切に願う。
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