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開幕
風の音。鳥の声。階下の喧騒。どこかで流れる水の音。
普段聞こえないこんな音が聞こえるのは、多分緊張しているせいだ。
ここは屋上。
青春漫画に出てくるような街の景色が一望できる広いものではない。
水道や空調設備、使わなくなった植木鉢や三角コーンで埋め尽くされた、景色なんてまるで見えないこじんまりとした屋上だ。
しかしこの視界の悪さは今回に限っては好都合。
俺はこれから片想いの相手に告白する。
相手は既にSNSで呼び出している。約束の時間まであと1分もない。
トントントン、と音が近づいてくる。
そしてゆっくりと扉が開いた。
「久しぶり、清くん」
肩までの黒髪とスカートをそよ風になびかせて立つ女子生徒。
隣のクラスの星井華弥、俺の想い人だ。
「クラス別れて以来だな。来てくれてありがとう、星井」
「うん、全然大丈夫」
呼び出したのは俺なのに。来るのは分かっていたのに。
心音がうるさくて、周りの音は聞こえなくなっていた。
でも言わなきゃ。
「たぶん、大体わかってるかもだけど」
「……うん」
変に前置きしてしまった。でも立ち止まるわけにはいかない。
今までで一番の勇気を振り絞って。
俺は彼女に言った。
「実は俺、君のことが」
「待って」
「!?」
え、なんで!?
彼女からの突然の制止に驚き、俺は口を噤んでしまった。
「ごめんね。あの、相談なんだけど」
星井は少し言い辛そうにしながら言う。
「……なんでしょうか」
「あのね」
緊張の余韻と新たな戸惑いから立ち直っていない俺に対して、彼女は神妙な面持ちで言った。
「私に告白させてほしいの」
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