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「これはひどい。」
ずっとパソコンを食い入るように見ていた若そうにも見え、歳をとってそうにも見える無精ひげを生やした男はその無精ひげをなでながらパソコンからやっと目を離した。
前髪が伸びすぎているため目がよく見えず、年齢の判別がつきにくい。彼のデスクの周りは書類なのか雑誌なのか漫画なのか、たくさんの書籍や紙が雑多に積み重ねられており、とても散らかっている。対して隣にあるデスクはパソコンと少しの文房具が整然と並べられており、何故か不思議なことにその無精髭男の机との間にアクリル板が一メートルぐらい立てかけてあった。無精髭の男の様子を少し見ていると、アクリル板の意味がよく分かる。立ち上がるとどこからともなくまた本を持ってきては本を机の上に置く。崩れた時に隣の男の荷物を自分の机に入れないためにバリケードを兼ねているのだろう。だが、その場所の持ち主は今はいない。綺麗に椅子が机の中にしまわれ、片付いていた。
「杉本。これどう思う。」
正面に座る眼鏡をかけた大人しめの女性に無精髭の男は声をかけた。その声に作業をしていた女性は作業を止め、スッと自分の席を立ちあがり、ぐるっと回って彼の隣に立ち画面が見えるように少し身をかがめた。
「これは。犯罪ですね。確実に。」
清廉とした印象の彼女からは到底出てこないであろう犯罪と言う言葉を発したと同時に彼女の席の横で中学生のようによだれを垂らして眠っていた中性的なきれいな男の子がガバッと飛び起き、よだれを拭った。そして、こちらに首をくるっと向けるとパッと立ち上がり、こちらに寄ってきた。
「犯罪。僕の出番だね。」
その男の子も無精髭の男のパソコンを覗き込むとまじまじと画面を見つめた。一つのパソコンを三人で見ているので、最初このパソコンを見ていた持ち主は二人に自分の視界を遮られ、追いやられた。
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