コノハ

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コノハ

「たお。飯をくれ」 「…は?」 家の前で、狐にそう言われたときは、自分の耳を疑った。 「我は知ってるぞ。お主の名は『こむらたお』。『かいしゃ』という四角い箱に入ってお金を稼ぐんだろう」 狐は、俺の家の玄関のドアを開けたところにちょこんとおすわりしている。 誇らしげに胸をはりながらそう言った狐。 …は? 確かに俺の名前は「小村多尾(たお)」だし、毎日会社のビルー狐いわく四角い箱ーに行っている。 いや、ちょっと待て。 狐が「言った」? 働いて疲れがたまっているのかもしれない。 俺はドアを閉めようとドアノブに手をかける。 と、閉める直前に、狐はするりと家の中に体を滑り込ませてきた。 「ちょっ!?何で入って来るんだよ!」 「我はたおに飯をもらう」 「やらねえよ!」 ったく、なんでこうなったんだっけ。 俺は頭が痛くなってくるのを感じつつ、必死にこうなってしまった理由を思い出そうとした。 ぴいんぽーん。 俺の家は、一軒家だ。 仕事でためたお金で買った。 仕事が休みの今日、俺は居間でのんびりテレビを見ていた。 明日からゴールデンウイークだ。 つまり、俺は自由。 わーい自由だ!! とは言っても、俺には彼女がいない。 一応、年齢=彼女いない歴、だ。 あ、でも、まだ俺は先月23歳になったばかり。 まだ、まだチャンスはある! あるはずなんだ!! とりあえず、現状彼女がいなくてシャレオツな趣味もなく、自由といっても暇を持て余すだけの俺だ。 別にいいさ、彼女がいなくたって、俺は自由を満喫してやる! みてろよリア充!! 俺はそんなことを思いながら、ポテチを開けようとした。 テレビをみながらのスナック菓子は罪だ。 と、チャイムがなった。 宅配か? 何か頼んだんだったかな? そんなことを考えつつ、ドアを開ける。 そこには、狐がいた。 大事なことなのでもう一回言わせてくれ。 そこには、 狐が、 いた。 普通の狐より若干大きい。ゴールデンレトリバーくらいの大きさ。 狐というと山にすんでいるはずだが、山からおりてきたとは思えないくらい毛並みは綺麗で、もしかしたら誰かが飼っていた狐っぽい犬が逃げ出したのかもしれない。 おすわりしてるし。 「なんだ、お前。飼い主さんから逃げて来たのか?」 俺がそう言うと、狐が俺を見て、 「たお、飯をくれ」 そう言った。 「だから!何でお前、喋るんだよ!」 「我は賢い」 「賢いからって狐が喋ってたまるか!」 狐は首をかしげた。 「昔、たおは信じていたではないか」 「…は?」 喋る狐って時点でもうおかしい。 悪いけど俺は先月で23歳。立派な成人。大学には行ってる。 で、つまり、喋る狐を前に無邪気に信じられる年でもない。 結論。 これは夢だ。 「たおがまだ我と同じくらいの背丈だった頃、話しただろう?」 …それ、俺が5才くらいの時の話じゃないか。 「たおが我の住む森に来た。その時、我と話した。それで、『大きくなったらお家においで、ご飯あげる』と言っていたではないか。だから、我は来た」 あ、あー。 思い出した。 おふくろがしょっちゅう俺に話してた。 「あんたが5歳のときなぁ、家族でキャンプに行った時、バーベキューの準備をしてる時にあんたがいなくなってな。探したけど、全然見つからんかったんよ。でも、その一時間後に、私達がバーベキューの場所に帰ったら、あんたは戻ってきとった。あんたは『狐さんとお話した!大っきくなったら、ご飯食べにお家にくるよ!』ってな。」って、よく言ってた。 いや、でもそんなことがあるか? 信じられるわけないやろ。 「たお。飯をくれ」 いや、信じるしかなさそうやわ。
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