コノハ

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約束したものはしょうがない。 俺は義理堅い男なのだ。 「…とりあえず、入れ」 狐を家に入れる。 「うむ、失礼する」 狐は嬉しそうにとてとてと玄関に入ってきた。 そういや、狐って何食べるんだっけ。 …肉食、だったよな。 …ご飯の問題は後だ。 森から来たんなら、汚れてるはず。 「洗うぞ」 「ん?もしや、『お風呂』というやつか?」 狐を風呂場に追い立てる。 「そこで待ってろ」 シャツを脱いで俺も風呂場に入る。 ペットの洗い方なんて俺は知らないから、とりあえずシャワーをだす。 「つっ、冷たい!たおは、お風呂とやらは温かいと言っておったのに!」 「こら、騒ぐな。もうちょいであったかくなるって」 「む?本当だな。ここから水が出ているな。これは水を吐く蛇なのか?」 狐がシャワーヘッドをてしてしと前足で叩く。 「ちがうって。シャワーヘッドっていうんだよ。叩くな」 狐にお湯を浴びせ、毛をわしわし洗う。 「気持ちいいな、お風呂というのは」 狐が目を細めて体をすりよせてくる。 「わっ、こら!俺まで濡れるだろ?」 「む。すまぬ」 シャワーから上がった狐を、タオルで拭く。 「む?これはかわった葉っぱだな。遊びか?」 タオルに飛びついてくる。 「あ、遊びじゃない!拭かせろ!床が濡れるだろうが!」 「濡れる濡れると、お風呂とやらは自分しか濡れてはいけないのか?」 「まあ、そんなもんだ」 「わかった」 大人しくなった狐を拭き、自分も濡れてしまったので別のタオルで拭く。 「狐…じゃ呼びにくいな。名前とかないの?」 「ない。」 狐は俺のお気に入りのソファの上で欠伸をしながら答えた。 「言の葉からとって、コノハとか」 狐が反応する。 「我は気に入った。我の名前は今日、いや今から、コノハ」 「じゃあ͡コノハ、早速質問だが、何食べるんだお前」 ネズミ、とか言われても無理だからな? 「む…たおが昔くれた『そーせーじ』とやらが食べたい」 あー、バーベキューで焼いてみるかって持ってきてたソーセージをあげたっけ。 十数年も前の話だ、もう詳しくは覚えてない。 まあソーセージでいいなら、近くに肉屋があるし、買ってくればいいか。 「よし、じゃあ買ってくる」 「うむ」 まだ4月のはじめ、肌寒いから薄めの上着を着て玄関に行く。 と、コノハまでついてきた。 「…なんで来るんだ」 「…我、置いてけぼり?」 ついてくる気満々だったコノハがしゅーんとうなだれ、尻尾が垂れ下がった。 俺はふぅと息をつくと、部屋から大きめのカバンを台車に乗せて持ってきた。 カバンはコノハが入れるくらいに大きい、スポーツバッグだ。 「これに入って大人しくしてられるんだったらいいけど?」 「我もついていく」 コノハはバッグに入ると、どうだとばかりに俺の方を見た。 「大人しくすればよいのだな」 「まあ、そうだけど」 俺は台車を引いて玄関を出て、鍵をしめた。
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