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「だから……お前が揀擇の書類審査通過したって話聞いて、お前ならって思ったんだ」
「王妃の座の穴埋めするのにってこと?」
「それも否定しないけど」
自嘲めいた笑みが浮かんだままの美貌が、まっすぐにソンアを見た。
「お前とはそれなりに付き合いも長いだろ。気心も知れてるし、性格も分かってる。俺が素性を隠してた分を差し引いても……まあ、外での俺は寧ろ素を晒け出してたけどな。お前がどう思ってたかは知らないが」
「……素性は言わないだけだと思ってたけど」
ソンアは、最早諦めの境地でまた一つ、溜息を吐く。
「つまり理由は色々あるってことね」
「そう言っちゃ身も蓋もねぇけど……お前なら王妃に相応しいって思ったのも本当だ」
「どういう意味よ」
「総括的に見てってことだよ。重臣たちにとって、次の王妃はサラ以外なら誰でもよかったから……それなら俺は王として決断したかったんだ。せめて民にとってよい王妃を選びたい」
サラ、というのは多分、初代王妃のことだろう。
「それって、一個の男としてじゃなく公人としてってことよね」
「そうだな」
それがどうした、と言わんばかりの美貌に、思わず拳骨をぶち込みたくなる衝動を、辛うじて堪える。
彼女を忘れられない――つまり、王はこの先、ソンアを女性として見ることは九割九分九厘ない、ということだ。
それを思うと、落胆にも似た感情が渦巻くのに、自分でも戸惑う。
「ソンア?」
「……何でもない」
意外なことで自覚してしまったその感情は敢えて見ない振りで、ソンアは一瞬目を伏せた。そして、ゆっくりと上げた視線を、王に向ける。
「それで、見返りは貰えるの?」
瞬時、目を瞠った王は、何度目かで苦笑する。
「……そうだな。何でも言うこと聞くぜ。あくまでも常識の範囲内でなら」
「当然ね。あたしの今後の人生狂わせたんだから、取り敢えず」
今日は、一緒に寝てくれるのよね?
そう続けて、小首を傾げたソンアに、またも瞠目した王は、苦笑したままでソンアを抱き寄せた。
【了】
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