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もっとも、ソンアには関わりのないことだ。
両親や姉を間近に見て育ち、結婚することや男を頼みに生きることがどれだけ虚しいか、ソンアは嫌というほど学んでいる。母や姉のように、男の独善的な都合に振り回されて生きるのだけは断固、御免蒙りたい。
しかし、父はソンアの冷ややかな反応には頓着せず、あっけらかんと言った。
「出しておいたのさ」
「はい?」
「表向き審査はされるがもう決まったも同然さ。なあ、ソンア。王妃になって、この父を老後、楽させておくれ」
――空いた口が塞がらなくなった。
***
「――で、家出してきたんだ」
「悪い?」
翌日の昼間。
馴染みの商団の執務室で、出されたお茶をがぶ飲みしながら、ソンアは据わった目で向かいに座す青年を睨んでいた。まるで、手にしている茶碗の中身が酒ででもあるようだ。
「第一あたしは誰が相手だって結婚なんかするつもりなかったのよ!? クソ親父……父様や母様の顛末を見てるから」
やけくそのように、手元にあった栗菓子を口に放り込む。
ソンアの父は、甲子士禍と呼ばれた粛清事件の折、連座で流刑にされていた。
先々代王・成宗の二番目の正妃で、廃位されたユン妃の処刑に関わった、ユン・ピルサンの十一親等の親戚だったという理由でだ。幼かったソンアは、母やきょうだいと共に、父とは別の場所へと流された。
十年前に反正〔クーデター〕が起きた時、父は恩赦され、晴れて家族は再会したのだが、父はその時、流刑先で手を着けた妾とその子どもたちを連れていた。
「しかも二人もよ!? 夫の浮気に文句を言わないのが女の務めだなんて、この国のお偉いサン方はどこまでも女をバカにしてるわ! 女だって人間なのに! 母様だってどんなに苦しまれたか……その所為だけじゃないけど、母様は末の弟を生んでからたった二年で身罷られたわ」
それが、ソンアが十歳の時だ。
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