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「それなのに、母様が亡くなるちょっと前には妾にもう一人異母弟が生まれて! ……まあ、もちろん異母弟に罪はないけど複雑よ。一応母様の喪が明けるまではあのクソ親父も我慢してたみたいだけど、喪が明けるなりあの妾を後妻に直しちゃうし、姉様だって嫁いだって言ったって結局囲われ者だし、それだって父様が貧乏両班のクセに女癖が悪くて借金が嵩んだ所為だし」
「女癖と借金は関係ないんじゃ」
「ウチの内情知らないんだから黙っててっ!」
机に拳を叩き下ろして睨め付けると、青年はソンアの言い分を往なすように、軽く肩を竦めた。
「挙げ句にあのクソ親父、あろうことかあたしまで売り飛ばしたのよ! しかも売り先は王宮とか、信じられるっ!? あたしが知らない内にちゃっかり処女単子提出してやがって、昨日戻るなり『喜べ、書類審査通ったぞ!』って、何の話だってのよ!!」
完全にやけ酒の様相である。何も知らない人間が見たら、茶碗に入っているのは酒だと思うに違いない。
手にした茶碗の中身を呷るように飲み干して、ソンアは一つ息を吐いた。
「……ま、将来この商団に就職するつもりで出入りしてたのは本当だけど、入団がこんなに早まるなんてね」
「悪いがそれこそ早まるのは勘弁しとくんな、ソンア坊」
ちょうど執務室に入ってきた商団の行首〔組織の長〕であるカン・ジスクが、手にしていた帳簿を、痛くない程度の力で背後からソンアの頭に落とした。
「って、何すんのよ、行首様!」
「何するはこっちの台詞だよ。よりによって王妃様候補をさらうよーな真似しろってのかい。商団が潰るだけで済みゃいーけど、下手すりゃ俺の首が飛ぶぁ」
「そんな殺生なこと言わないで、連れてってよ行首様ぁー。明日から明国に行くんでしょっ!?」
素早く立ち上がったソンアは、見捨てられそうな子犬も斯くやという様子でチスクの足下に縋った。眉根にはしわが寄り、眉尻は哀れっぽく下がっている。
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