彼と彼女の契約婚~こうして私は王妃になった~

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 これが幼子ならともかく、残念なことにそれで泣き落とすには、十五歳では年齢が行き過ぎていると言わざるを得なかった。その所為で、いまいち哀れを誘い切れていないのに、ソンア本人だけが気付かない。 「ねぇー、お願い! あたしが(ミン)国語ペラペラなの知ってるじゃないっ! 自分の身だってちゃんと守れるくらいには武術だって(たしな)んでるし、商売の足手纏いにはならないからぁー!」  ソンアの『生涯独身計画』は、自己評価的にも割と手堅いものだった。  女が独身で自分を食わせていく為に、着々と準備を進めて来たというのに、あの自己中な父親の所為で瓦解しようとしている。  計画をどうにか遂行すべく、今まで生きてきた中で一番必死に懇願していたというのに。 「下級とは言え、両班(ヤンバン)の姫がするこっちゃねぇな」  と、冷や水でも掛けるようにボソッと漏らしたのは、先ほどまでソンアの向かいに座っていた青年だ。  たちまち目尻をつり上げたソンアは、ギロリと彼を振り返る。その睨みに対して、女性と見紛(みまが)う端正な容貌は、動じた様子を見せなかった。が。 「うっさいわね、この女男」  ボソリと吐き捨て返すと、睨みだけではピクリともしなかった整いまくった顔は、的確すぎる地雷攻撃にあっさり崩れた。 「何だと、この男女」  薄く引き締まった唇が、ヒクリと震える。  けれども、ソンアにも『女性らしくない』に類する言葉は地雷だ。 「何ですって!?」  普段からお世辞にも長いとは言えない堪忍袋の尾は、あっさり切れる。 「いくら国一番の妓生(キーセン)〔遊女〕も真っ青な美人だからって、言っていーことと悪いことがあるわよ!」  ソンアの言うことは事実だったが、青年にとっては褒め言葉でも何でもない。  吊り上がった切れ長の目元に縁取られている、磨き抜かれた黒真珠の瞳が、無表情にソンアを見据えた。 「誰が妓生と間違われる女顔だって?」 「いー年してまだ気にしてる辺りがって言ってるの!」  すると遂に、青年も椅子を蹴って立ち上がった。
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