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「ジョートーだっ! この男女、表出ろ!」
「おお受けて立ったらぁー!!」
「あー、そーこーまーでーだっ、このバカどもがっっ!!」
スパン! という小気味よい音を立てて視界が塞がり、顔面に何とも形容し難い刺激が走る。
反射で閉じた目を開くと、チスクが手にしていた帳簿が引いていくのが見えた。青年も同様に引っ叩かれたらしく、顔を押さえて俯いている。
あの綺麗に通った鼻筋を、遠慮なくへし折りそうな威力で帳簿をぶちかませるのは、朝鮮広しと言えどもチスクくらいだろう。
「ここでくだ巻いてたって解決しねぇだろ、ソンア坊」
「だって行首様!」
「だってじゃねぇ! ナクチョンも下手にこいつ煽ってねぇで、家帰るよう説得してくんな!」
ナクチョン、と呼ばれた美貌の青年は、鼻をさすりながら眉根を寄せた。
「無茶振りしねぇでくれよ。そいつの頑固具合は行首様だって知ってんだろ? 梃子でも動きゃしねぇよ」
お手上げ、と言わんばかりにナクチョンが肩を竦めたが、チスクは既に聞いていない体勢だ。
「知るか。とにかく俺は、下らんことで商団を潰したくねぇんだ。脱走するなら自分の才覚だけでやっとくれ、お嬢様」
立てた人差し指で交互にソンアとナクチョンを指し示したチスクは、野良犬でも追い立てるように二人を執務室の外へ放り出す。
「くっ、下らんだなんてひどい! コトはあたしの一生涯の一大事だってのに――」
言い終える前に、扉は無情にも閉じられた。
執務棟の外への通じる廊下に取り残され、必然一緒に佇む羽目になったナクチョンには凄まじい視線が向けられる。
「――ッもう! ナクチョンの所為よ!」
「何で俺の所為なんだよ」
ソンアの視線を弾き返すように、ナクチョンが冷ややかな流し目をくれた。しかし、ソンアもこれで怯むような少女ではない。
「あんたがおかしな横槍入れるから結局摘み出されちゃったじゃないのっっ!!」
「もっかい入ってって頼みゃいーじゃねぇか」
「撃退されるのがオチだって分かってて突撃するのは、それこそバカのやることでしょ」
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