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ふん、と鼻を鳴らして、ソンアは扉に背を付けるようにしてしゃがみ込んだ。
「て言いながら座り込みか?」
「違うわよ! でももう家には帰れないし……」
しばしの間ソンアを見下ろしていたナクチョンは、ややあってからソンアと目線を合わせるようにして同様にしゃがみ込む。
「……何よ」
「いや。今のお前の目の前の重大事は、よーするに独身でいられるかどうかだろ?」
「……そうだけど」
「だったら、考えようによっちゃ僥倖なんじゃねぇか」
「何がよ」
完全にお冠になったソンアを、ナクチョンは宥めるような顔で見つめた。
「だってよく考えろ? 万が一、最終審査……三揀擇まで行ったとしてもだ。そこで滑ったらお前の望む一生独身で通せる権利が労せずして手に入るんじゃないか?」
言われて、一瞬ハタと思考が停止する。反応を言葉にしないソンアに、ナクチョンが畳み掛けるように続けた。
「やりようによっちゃ、一次審査の初揀擇で脱落することだってできるんじゃねぇのか」
「そっか……そうよね」
揀擇に参加するのは、実は不利益と利益が隣り合わせだ。
今回の場合、上手くすれば王の側室になれる可能性もあるが、処女単子を提出した時点でその女性は王に嫁いだと見なされる。つまり、書類審査に滑ったとしても、ほかの男にも嫁げなくなるのだ。
但し、それはあくまでも結婚願望のある女性の場合の不利益だ。
ソンアにとっては、確かにこの上ない僥倖である。
「分かった。頑張って滑れるように振る舞ってみる!」
いつの間にかできた同志に宣言するように言って、ソンアは勢いよく立ち上がった。
***
(……そうよ、そのはずだったのよ。なのに何であたしは今こんな所に座ってるの)
自問したって始まらない。
目一杯、『王妃に相応しくない女子』を演じたはずが、あれよあれよと初揀擇、二次審査の再揀擇、三揀擇を通過したソンアは王妃に決まってしまい、否応なく王妃教育を受けさせられ、その間に年は明け、今日この日――婚礼の日を迎えてしまった。
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