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「想う相手もいなさそうだから、暇潰しに王妃にでもなっておけって?」
「……それも否定できねぇな」
王が漏らした自嘲するような笑いに、苛立ちが募る。
「国王殿下じゃなきゃ、今頃顔の形が変わってるわよ」
「おお怖」
おどけるように言って肩を竦めた王は、苦笑を浮かべた。
直後、手に温もりが触れる。王の手が、ソンアの手を取っていると確認して、一瞬ドキリとした。顔を上げると、どこか寂しげな微笑が視界に入って、ますます動揺する。
「……悪い。完全に俺の都合なんだけど……言い訳させてくれないか」
「……何よ」
なぜかばつが悪くなって、ソンアはボソボソと言いながら、視線を逸らす。
「俺には……十年前に離縁した妻がいるんだ。知ってると思うけど」
「……うん、まあ」
『ユン・ナクチョン』の素性は、実はよくは知らない。
カン商団に行くと顔を合わせる青年だったから、カン商団か、提携商団の団員だと思っていた。
だが、国王のことなら少しは知っている。
先の、亡くなった正妃が二番目の正妃であることと、最初の正妃が、反正の際に廃位された王の正妃の姪だった為、離縁・廃位・追放されたこと――くらいは。
「……実は、その妻が忘れられなくてさ。二番目の妻が亡くなったから、その機に最初の妻を呼び戻したいと思ってたんだ。反正からもう十年経ってるし、ほとぼりも冷めてるから復位させてもいいんじゃないかってな。けど、実現できなかった」
「前の……シン妃様ご自身が、お断りになったの?」
復位を、という口にしない続きを察したのか、王は寂しげな微笑を浮かべて首を振った。
「反対したのは重臣どもだ。廃王の罪は許されない、だから廃妃シン氏も許される道理がない、って。……実を言うと、お前が商団にくだ巻きに来てた日、俺もあそこには現実逃避に行ってたんだ。お前の言う通り、確かに女々しいんだけど」
クス、とまた一つ、王の口から自嘲の笑いがこぼれる。
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