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俺がその鍵を入手すると同時に、スマートホンがぶるん!と激しく震えた。途端、周囲で女の子を取り囲んでいたライバル達が、揃って床から生えてきた刺に串刺しになって死んでいる。鍵を手に入れた者以外は死ぬ、わかっていたが、画面いっぱいに飛び散るグロテスクな血肉に辟易せざるをえない。
――気持ち悪くなってきた。早く終わりにしよ、こんなゲーム。
最初は出来の良さを褒めていたものの、こうも残酷描写ばかり続くと気分が悪くなってしまう。俺はいそいそと鍵を使ってその部屋を脱出した。
その後も、罠の部屋、試練の部屋をいくつか乗り越え、そのたびに誰かが死んで絶叫が上がる仕様である。俺が気分転換もかねて食べていたカレーは、丁度奥の部屋に辿り着くと同時に綺麗に食べきっていた。祭壇の上には黄金の聖櫃が置かれ、キラキラと輝いている。俺がクリックするとパカリ、とそれは開かれ、“おめでとうございます!”という文字が現れた。
『おめでとうございます!
百万円は、貴方のものです!
賞金は全てお持ちの講座にお振込みいたしました。
Thank You For Playing!』
――あー、振り込んだってことにすんの。あっそう。
なんかもう、どうでもいい。そのまま自動でクローズした画面を見て、俺はそのままスマホをスリープ状態にした。最初は面白そうだと思ったけれど、グロテスクすぎて無駄に疲れてしまった気がする。最初から、本当に百万円が手に入るなどと思っていないから尚更だ。
――しかし、結局誰が作ったゲームかとか、何もわかんなかったなあ。これじゃあレポートの材料にはならないかあ。
ふぁああ、と俺があくびをした、まさにその時だ。
ずきり、と。左腕に、痛みが走った。へ、と思って俺は自分の左手を見る。痛いと思ったのは、丁度肘のあたり。半袖のむき出しの腕――その肘のあたりに、すーっと赤い線が走っていく。
「え、え?」
ぷつぷつと溢れていく――血。何これ、と思った次の瞬間だ。
「ぎ」
ぶちゅり、と肉が潰れるような音がして。ぶちり、とその傷が大きくなった。線にそってぱっくり開く傷。しかそれは、ナイフで切ったような綺麗なものではない。ぎざぎざしていて、まるで繊維を強引に引き裂いたかのよう。そう――まるで、ノコギリで切ったように。
「ぎ、ぎゃあああああああ!い、痛い痛い痛い痛い!、なんだよこれ、なんなんだよこれえええ!?」
みるみるうちに、ごりごりという鈍い音と共に傷が大きくなっていく。見えないノコギリで、腕を切断されそうになっていると気づいた。あのゲームと同じように、と知ってぞっとする。ゲームの中で、俺は自分の左腕を生贄にする選択をした。そして、ノコギリで腕を切り落とされたのだ。
そんなもの、ゲームの中だけに決まっている。そのはずだろう。なのにどうして今、現実の自分の腕が切り落とされそうになっているというのか。
地獄の苦痛の中、傷がどんどん深くなっていく。引き裂かれた肉の狭間から、白い骨が除いた。これ以上切り裂かれたら本当に、腕が元に戻らなくなってしまう!
「た、助けっ…………ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
最後まで。人気はないとはいえ、学校であったにも関わらず――俺の叫びを聞きつけて、人が駆けつけてくるということはなかった。俺の腕が切り落とされて、血飛沫と共に床に落下するまで。
後日、俺は入院先で目覚め――自分の腕がなくなったことと同時に、謎の百万円が口座に振り込まれていたことを知る。
同時に、都内のあちこちで、謎の猟奇死体が大量に発見されたことも。そのうちの一人、小学生の女の子が、生きながらにして手足や腹を切り刻まれて殺されていたらしいということも。
あのメールは、いつの間にか俺のスマホから消えてしまっていた。警察には言ったが、当然信じてもらえてはいないのだろう。
ゲームを作った人間が誰であったのかは、未だにわかっていない。
もしかしたら今もどこかで、同じ迷惑メールが誰かの元に届き続けているのだろうか。
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