当選メール

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――ていうか、レポートの材料にもできそーだよなこれ。迷惑メールを送る奴の心理とその目的。犯罪抑制にも役立つかもしれないし……。  予め詐欺だとわかっていれば。引っかかることもないだろう。俺はあえて、そのサイトのリンクを踏んでみることにした。ワンクリック詐欺なんてものも世の中にはあるが、あれはクリックしただけでお金を引き出せるようなものではない。携帯電話の通信料と合算でお金をちょうだいしますー、なんてことを言っても、ワンクリックだけでお金を取れるようにはできていないのだ。あくまで、そういう文章で相手を脅して、向こうからお金を振り込んでくるように仕向けたり、情報を盗むのが目なのである。  さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。俺は食堂で注文したカレーライスを頬張りながらボタンをクリックしてみた。晩御飯を食べるにはやや早い時間ということもあって、食堂に他に客らしい客はいない。当然親も傍にいるわけではないので、少々品のないことをしていても咎められる心配はなかった。美味しい御飯を食べながらのんびりスマホをいじる、ちょっとした贅沢である。特に此処のカレーは結構辛口だし、お肉もごろごろしているので俺好みなのだ。 「およ?」  てっきりカラフルなエロサイトでも表示されるのかと思いきや、現れたのは真っ黒なサイト画面だった。これはホラー系のサイトだろうか。あるいはいきなり警告でも出てくるのだろうか。  少しわくわくしながら待っていると、赤い文字が現れた。警告!という文字は予想通りだが、その中身は俺が思っていたものと少々異なっている。 『<警告>  選ばれた勇者よ、よくぞ此処まで辿りついた!  百万円のお宝まで、あと少しである。トラップだらけの洞窟を抜け、同じく百万円を狙うライバルよりも先に無事百万円までたどり着いて見せるべし!  洞窟には様々な罠がある。その多くが死を伴う危険なものだ。  それでも構わない!という勇気ある者のみ、扉を開いて洞窟の中を進むべし!』  警告文の前には、思い鋼の扉のようなイラストが表示されている。意外にも、自分が誘導されたのはゲームのサイトであったらしい。もしかして、このゲームの宣伝がしたくてあんなメールをバラ撒いたんだろうか?と俺は思った。  同時にもしかして、と思う。この迷惑メール、自分がやっているゲームのサーバーからアドレスが流失してやって来たのかもしれないと。オンラインゲームをやっているなら、そいつは間違いなくゲーム好き。実際俺は、オンラインゲームもアプリもとあっちにこっちに手を伸ばす生粋のゲームオタクだ。相手が俺を選んだ理由がもしあるのだとしたら、大方ゲームオタクで宣伝効果が見込めそうだったから、に尽きるのだろう。  なんにせよ、いきなり謎のエロサイトに誘導されるより、よっぽど面白そうなのは確かである。俺は扉のイラストをクリックして、ゲームをスタートさせることにした。音声があるかもしれないと思って、イヤホンもつけてみることにする。途端、おどろおどろしい音楽と共に、ぎぎぎぎ、と重く扉が開く音が鼓膜を揺らした。なかなか本格的だ。
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