真ヒロインは諦めない

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真ヒロインは諦めない

 私が空木桜(うつぎさくら)に声をかけた理由は、単純明快。彼女がクラスで一番のブスだったからである。  ぼさぼさのくせっ毛のショートカットに、ぶっとい眉毛。目は小さいのに鼻と口はでかくて、体も随分太っている。ぽっちゃり系、なんて言葉で収まるレベルでもない。きっと人生で一度も、男子にモテたことなんかないのだろう。 「こんにちは、空木さん。私、宇田(うだ)アンナっていうの。よろしくね?」  出席番号順で並んだ座席で前後で、ついでに究極的なブス。条件は十分揃っていた。私は昔から、友達をそうやって選んできたのである。そう、必ず“ブサイク”を友達にして、並んで歩くことにしているのだ。そうすることで、可愛い私の容姿が比較でさらに輝くことを知っていたからである。引き立て役として、ブサイクな友達は非常に有用な存在であったのだ。  真面目そうな桜は、私に声をかけられて最初驚いていた。そして何度も嬉しそうに頷きながら、こう告げたのである。 「あ、ありがとう宇田さん!本当は、心配だったんだ。中学上がったら、全然知ってる人がいなくて。友達が一人もできなかったらどうしようって」 「そうなの?」 「うん!だから、宇田さんが声をかけてくれて、すっごく嬉しい!」  馬鹿な女、と私は心の中で笑っていた。同時に納得もしたのである。オナ小の子が多い中、桜は見たことのない生徒の一人であった。この近辺はA小学校の学区とほとんどが被っているせいで、私と同じA小学校出身の者が多い。僅かにB小、C小出身の生徒がいる程度だ。きっと彼女は、そのどちらかの生徒であったのだろう。  念のため、後で彼女とオナ小の子を探して、桜の評判を聞いておくことにしようと決める。さすがに影で人の悪口を言ったり、大型掲示板に悪評を平気で流すようなタイプの子を友達にしておくわけにはいかないからだ。いくら実際は、“友達という名の取り巻き”のつもりであるとしても、である。下手な子を友達にしたせいで、私の評判まで下がってはたまったものではない。 ――ま、あんたがダメなら、他の奴を“友達”にするだけなんだけどね。友達なんて、いくらでも替えがきくんだから。  昔からだ。私は幼稚園の頃から、そうやって生きてきたのである。  自分が誰よりも美少女であることを、自覚していたせいで。
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