割石芽玖璃の推理

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大教室が不意にざわめき始める。どうやら講義が終わったようだ。続々と受講生たちは荷物をまとめ始め、教授もそそくさとレジュメをまとめると講義室から出て行く。 そんな彼らに倣い、芽玖璃もスマホとカバンを手に取って立ち上がる。 「それじゃあね、矢代くん」 「ま、待って———」 「あら何? まだ私の推理に何か疑問?」 「いや、それは全然関係ないんだけど———連絡先とか、教えて欲しいなぁって」 俺の申し出に、彼女は一瞬驚きを顔に浮かべ、そして数瞬、躊躇ったのちに小さく笑う。 「―――そうね‥‥‥まあ、中々面白い頭の体操を持ってきてくれた代価としては悪くないわね」 そう言って、彼女はスマートフォンの画面を俺に突きつける。表示されているのはソシャゲのプレイ画面———ではなく、LINEのQRコード。 「———え、マジで? いいの?」 「後10秒で引っ込めるから。ハイ、1、2……」 「わ、わ、わ! 待って待って待って!」 何とか俺は10秒以内にLINEを開いて、芽玖璃を友達登録することに成功する。表示されたアイコンはやっぱり彼女お気に入りのソシャゲ、GDJのキャラクター。 「じゃあね。矢代勇儀くん———」 芽玖璃はそう言って、席を立ち教室から出て行く。優美に髪を揺らし去って行くその姿は、難解な殺人事件の真相をあっさりと推理して見せる名探偵にも、人の心を抉りまくるサディスティックな悪魔にも、愛するゲームに全てを捧げたソシャゲ狂にも見えない———ただの女子大生だった。 そんな彼女の後ろ姿を見送った俺は、次の瞬間スマホから電話をかける。掛けた先も、目的も、説明するまでもあるまい。 「———あ、もしもし姉さん? 糸野警部に代わって欲しいんだけど代われる? え、何? 目の前にいるって? ああ警部、お久しぶりです。早速で悪いんですけど調べて欲しいところがありまして———」 次の日、大学全体がバラバラ死体で発見された朱雀教授の醜聞と、彼を殺害した大学院生の話でもちきりになったのは言うまでもない。 そして、東京に帰ってきた姉が「地獄に落ちろ! 変態教授ッ!」と、故人に向けて悪態を吐き続けていたのも右に同じだ。
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