出会い

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出会い

冬休み明け。雑多なビル群が立ち並ぶ街の中を走る路地を歩いて行くと、不意に雰囲気の違う建物群が現れる。コンクリートの直方体をそれらしくくりぬいただけの「ビル」とは訳が違う。ガラス張りの「摩天楼」、大正浪漫を感じさせる歴史感漂う神殿のような高層建造物。まあ、こちらも要素を雑然とぶち込みすぎのきらいがあるが、それでもやはり漂うハイソかつアカデミックな高級感ある雰囲気は辺りの雑居ビルなどとは明らかに一線を画していた。 この建物群こそが俺が通う大学である。 昨年末、最後の講義の日から約2週間ぶりに大学構内に足を踏み入れた俺は、門から徒歩7秒の茶色の建物へと駆け込む。 まずは自己紹介をば。俺の名前は矢代(やしろ)勇儀(ゆうぎ)。都心の私立大・早和大学に通いながら、日々を怠惰に生き、試験前に猛烈に焦り出すタイプの一般的な大学生だ。 ちなみに学期末試験まで1ヶ月を切った今現在だが未だに勉強に着手していないし、何なら教科書を開いたことのない科目の数は片手では収まらないが、未だに一切焦りを感じてはいない。 そんな中にありながら俺の意識は学問に向くことはない。 今俺の脳を支配しているのは、学生らしい色恋沙汰への強い羨望だ。というのも、昨年のクリスマスに普段よくつるんでいる語学クラスの友人(通称、田宮チャイ語の三馬鹿。田宮とは我らが中国語の指導教員である田宮教授のことである)2人がめでたく彼女持ちになってしまったためである。 その結果、昨年はさみしく野郎3人で行ったはずの初詣が、今年は野郎1人で調布の深大寺詣とより一層の寂しさと新たに屈辱を噛みしめる羽目になってしまったのだ。ちくしょうめ。 家族連れ、カップルが楽しく和気藹々と賽銭を投げ、おみくじを引いて表面的に一喜一憂する中、百円玉を賽銭箱に叩き込みながら「リア充爆発四散しろ!!」と念じた後に、一人で少しお高い蕎麦をすすった俺の気持ちを誰か御理解頂けるだろうか。
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