出会い

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「バラバラ殺人―――それって朱雀教授の事件のコト?」 「お、知ってたか。そう、我らが法学部の教務主任・朱雀英輔教授の殺人事件だよ」 申し遅れたが俺こと矢代勇儀は、この大学の法学部に通う学生だ。 ここで一つ言っておきたいのだが、間違っても「将来は弁護士?」だとか、「何かあったら安くしておいてね?」だとか法学部生の全員が全員司法試験を受験して法曹資格取得を目指しているというような誤解は早々にそこいらのドブに投げ捨てていただきたい。 そして、万が一今言ったようなセリフを法学部生に吐いたことのある方々がいるのならば、そうそうに心の中で土下座して、二度と言わないと天地神明に誓っていただきたい。 その悪意のない純粋な言葉にどれだけの非法曹志望の法学部生が微妙な気分にされたことだろう。俺自身もバイト先や親戚まわりに幾度となくそんな言葉を掛けられ、クソ真面目に説明した挙句その場の空気を微妙にしてしまうという事故を何度も演じてきた。そのたびに心の中で中指を立てて、悪態を振りまいていたことは言うまでもない。 もう未来の法学部生にこんな悲しみを背負わせないよう、この悲劇の連鎖を断ち切るためにこれだけは声を大にして言わせておいてもらう。 さて、話を戻そう。 俺が今から話そうとしているのは我らが法学部教授・朱雀英輔氏の身に起きた悲惨な事件だ。 朱雀教授の専門は「法哲学」「法政策論」だそうでそれに対応した科目を法学部で担当しているが、本属は大学院法学研究科―――つまるところ、法学者になりたい人向けの大学院にお勤めの方だ(ちなみに司法試験受験資格を得られるいわゆる「法科大学院」「ロースクール」は我らが大学では「法務研究科」と呼ばれており、朱雀教授はそちらでも講義をしていたらしい)。
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