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「すみません、隣いいですか?」
善は急げと早速声を掛ける。すると茶髪の彼女は一瞬ビクンと体を震わせたかと思うと、ちらっとこちらを見て辺りを見渡す。
―――そりゃあ違和感あるでしょうね。前の方にバカップルどもが間も空けずに固まっているせいで後ろの座席はがら空きですから。
しかし別の場所に行けと言うわけにもいかないと思ったのか、茶髪の彼女は視線を手元に落としたままこくりと小さく頷く。
よっしゃ、第一段階クリア。
相変わらず手元から視線を動かさない茶髪の彼女の横に俺はどっかりと慣れたように座り込む。まあもちろん、慣れた「ように」の言葉通り実際に慣れているわけではない。
俺のこれまでの女性遍歴はパーフェクトに空白で、女子とこんな至近距離に座ったのは祖母と母と姉を除けば生まれて初めてかもしれない。少なくとも思春期を迎えてこっち一度もないのだけは確かだ。
それゆえ心臓は当然の如くバクついてるわけなのだが。とはいえそんなことを隣に座る彼女に悟らせるわけにはいかない。
「ねえ、君さ。こうして隣に座ったのも何かの縁だと思うからさ、名前教えてよ。あ、俺の名前は矢代勇儀ね!」
「何かの縁」もなにも空席目立つ教室の中無理やり女子の隣に座ったわけだが。そんな関係にどんな縁を求めるのかと自分でも突っ込まずにはいられない。
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