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「おじいちゃん、こちらへどうぞ!!」
翔太が、元気よく太蔵を招いた。
太蔵は翔太が後ろで待つ座椅子へ移動しようと腰を浮かせ、
「いーーや! おじいちゃん、こちらへどうぞ!!」
られなかった。
すぐに奏多が、太蔵の腕を強めにぐいっと引っ張ったからだ。
太蔵は、すとんという音が聞こえてきそうなほどきれいに、元いた座布団の上にしりもちをついた。
「くっそぅ。奏多、きさま、覚えておれよ!」
ゲームか何かで覚えたのだろう。おおよそ7歳児には似つかわしくない言葉遣いで、机を挟んで斜め前にいる弟をなじると、翔太はその場で、だしだしと地団駄を踏んだ。
「ふっふーーん。おじいちゃん、今日はぼくがおじいちゃんのお世話なんっっでもするからね。ねっ。ねっ」
とんとんとん、と自分の肩の上でリズミカルに小さな腕を振り下ろしている奏多に、太蔵は相好を崩した。
「ありがとうよ。かなちゃん。上手だね、肩たたき」
「へっへっへっ。なんでもするからね~」
「ああ、上手だねぇ。気持ちいいよ。うん、そこそこ。そう、うまいねぇ」
太蔵を巡るレースは、このまま奏多に軍配が上がり、一件落着。
な、はずがなかった。
案の定、机をぐるりと迂回して、翔太がダダダダダとやかましく駆けてきた。
奏多の横に並び、振り下ろされる腕をぱしりと掴んだかと思うと、
「お前、そろそろかわれよっ!」
こども特有の金切り声で叫んだ。
奏多がむっと口をとがらせる。
「やだよ。おれいま、おじいちゃんに、ゴホウシしてんだもん」
「おーれーにーもーやーらーせーろーよー!! ゴーホーウーシー!!」
「やだよっ! おれがすんだよ。じいちゃんのせわ!」
「おれもしたいんだよ! じいちゃんのせわっ!」
ギャーギャーと喚き出した自分の息子たちを見て、美佳は深いため息をついた。
「おとうさん、めっちゃ人気じゃーん。子どもにモテるタイプだっけ?」
妹の千花が首を傾げる。
美佳は首を横に振り、
「違う。『賃金』が発生するからだよ」
【了】
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