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第四話 白い夜
あれから、歩き続けて三日が経った。
夜には焚き火を炊いて野宿。ご飯はそこら辺にいる食べられる虫とか果物。
私は田舎暮らしだったので、虫は平気で触れる。
ぱっと捕まえて、さっと火にかける。
(虫も結構美味しいかも。でも、全くお腹にたまらない。たまにはお肉とか食べたいなぁ……。)
だけど白椿鬼は虫が嫌いなのかなんなのか、三日間一度も食べ物を口にしなかった。
(人間食べなくても生きていけるって言うけど、お腹空かないのかな。)
「っしょっと。白椿鬼ー、藁貰ってきたよー。」
野宿と言っても、土に直寝はキツいので、近くの市場から藁をかき集めて寝る。
「そうか。明日も朝から歩く。さっさと寝ろ。」
「ねぇ白椿鬼、まだ着かないの?」
「明日には着く。安心しろ。」
「はぁい。」
二つ結びにしていたので、髪ゴムを取って腕にはめる。
「白椿鬼は寝ないの?」
「まあな。」
そういえば、白椿鬼はちゃんと寝ているのだろうか。いつも白椿鬼は、私が寝た後に寝て、私が起きる前に起きていると思っていたが、考えてみれば白椿鬼の寝顔とか見た事ない。
(まあ、まだ会って三日だもんな。)
考え事はやめよう、と、私は目を閉じて眠りに入った。
─────ソレカラソレカラ─────
「ぐふぇ。」
どうやら寝相が悪く、藁ベットから落ちてしまったようだ。
「あ、よだれ。」
袖でごしごしと強めにこする。
キョロキョロと辺りを見回すが、白椿鬼は居ないようだ。
(こんな恥ずかしい姿見られたらまたばかにされる。いなくて良かった。)
「ひぇぇっ、さむう。」
体をさすりながら、キョロキョロと辺りを見回す。さすがに冬の夜に野宿はきつい。
(白椿鬼、どこ行ったんだろ。)
「……やっ! …… はっ!」
(ん?)
どこからが、少年の声が聞こえる。私は耳が良い方なので、その声がどこから聞こえるのかを察知しようと、耳をすませる。
(……あっちの、林の方からだ。)
私は起き上がり、声に導かれるように雑木林へと迷い込む。
(こっちかな?)
木の影からそっとのぞくと、そこにいたのは白銀の髪をした深く青い目をした少年だった。
(誰だろう。)
少年は、樹に向かって木刀を色んな方向から叩いている。
何度も叩いたのだろう、その樹にはおびただしい程の傷が出来ている。
「はぁっ────!!!!!!!!!!」
少年がそう叫び樹を叩いた瞬間、その樹は真横へ、ガン、と重い音を立てて倒れた。
その時、雲に隠れていた月が、ゆっくりと顔を出した。
少年の周りは月の光に照らされ、少年の髪、目、汗と、全てが輝き出す。
私はまるで神でも見たかのような神秘さに、心を惹かれてしまう。
(すごい……神秘的……。)
あまりの美しさに見惚れ、ぼーっとしていると、少年は木刀を真横に投げた。
ガンッ
その木刀は、私の隠れていた樹に刺さった。
「誰。」
少年はギロリとこちらを睨みつける。先程の美しさとは反転し、氷の様な視線に私は縮こまってしまう。
「えっと……。あの、すごく、すごく、綺麗だった、から!!!!!」
あの神秘的な風景を言葉に現せなんて言われたら、私は首を横に振るだろう。
私は俯き、一歩……二歩、三歩と歩むにつれてそっと顔を上げる。
「それに……凄くかっこよかった!!!!」
「はぁ……?」
私が目をキラキラさせてそう応えると、面倒くさそうな顔をした。
「満月でもないのに、月の光がキラキラしててっ! それで、樹がばーんって倒れた瞬間、月の光がふぁー! って!!」
「はぁ。」
「す、すごくて、すごい! 鉄じゃないのに、木刀なのに! 樹が斬れるなんて!」
「別に斬ったわけじゃないですが。」
少年は愛想悪く答える。
「これ、本当に木刀なの!?」
私は目の前の樹に刺さった木刀をぐっと引っ張る。
(あれ?)
いくら引っ張っても、木刀は樹から離れようとしない。
力いっぱい、全身の力をかけて引っ張るも、抜けてくれない。
「す、すごい。投げるだけでこんな深く刺さるなんて……。」
「呆れた。」
少年はこちらへやって来て、片手で木刀をすっと抜いた。
「さ……す、すごぉい!!!」
「いや別に凄くないし。」
「いや、凄いよ!」
私は少年の方へ前のめりになって訴える。
「わあ! すっごく綺麗な目してるね!」
(わー! こんな綺麗な青い瞳、初めてみた……! 日本には青い瞳の人なんていないからなー。)
「うるさいな、そこらじゅうにいるでしょ。」
「あ、ご、ごめん。興奮しすぎてた。」
少年は私の顔を見ようとせず、帰ろうとする。
私は彼の手に持った木刀を目にし、腕を掴んで引き止めた。
「で? 僕になんか用?」
「もしかして、剣士かなって。」
「だから何。」
(もしかして白椿鬼が言ってた昔の友人ってこの子かな!)
あとから考えれば、この子は赤髪でもないし、こんな幼い子が二百年前から生きてる人と友人なわけがないのだが、今の私にはそんな思考に回るほど落ち着いてはいなかった。
「あのさ、もう帰っていいかな。」
(でもどうだろう、白椿鬼から特徴とか何も聞いてなかったな……。)
「はぁ……帰るね。」
(あ、そうだ、白椿鬼を知ってるか聞けばいいんじゃん!)
「ねぇ、白椿鬼って知って……あれ!?」
先程までいた青い瞳の少年君がどこにもいない。
「あれ……?」
(あっ、また一人世界モードに入ってたかも……。恥ずかしい。)
林の中を叫んでみるも、帰ってくる言葉はない。
(この世界は凄いや。瞬間移動もできるのか。)
とりあえず林をぬけようと、私は林の外に出た。
すると、奥の奥の方にちーっさな少年君の背中が見える。
(あ……あれかな?)
朝日が昇り始めの頃、私は目を輝かせて少年君の背中を追った。
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