第六話 意外な一面

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第六話 意外な一面

「「いざ、勝負!!!!!!!」」 まずは手始めに先程の混乱の音楽を奏でる。 (私は目を閉じないとできない。つまり先に攻撃しないと、終わる!) 「そんな拙い音楽で二度も僕を混乱させるとでも?」 (だめだ、これはさっき使ったから弱点がバレてるんだ。) 「と見せかけての魔笛より 魔法の鈴!」 これはオペラ魔笛に登場する曲で、鈴の音を聞いた敵が踊り出すという曲。 私は頑張って踊りだせ、踊りだせ、と念じる。 「なに、これ……!」 抵抗するような声は聞こえるが、やはり威力が弱いようですぐに吹っ切ったような声が聞こえる。 (早く、次のを) 「攻撃の……!」 「次は僕の番、でしょ。」 頭上から声が響く。 「な!」 慌てて目を開ける。 (避けられるわけ……。わ、技を) 「ドのシャープ!!!」 自分でも訳の分からない音楽を奏でる。 いや、これは音楽といえるのだろうか。 (無理でしたァァァァァー!!!!) 私は普通に一本くらってしまった。 (仕方ないじゃん……戦いなんて知らない平和な世界で生きてたんだもん……。) 先程の白椿鬼がどれだけ手加減してくれた事かと分かって白椿鬼の優しさに惚れる。 相手の白夜君は余裕の表情で私を見る。 (くっ、腹立つ顔しやがって……。) 負けたのには何も悔しくないが、あいつに負けたのだけが気に食わない。 「いたかねぇか?」 「うぅっ……大丈夫です……。」 木刀とはいえ頭にくらったんだから相当痛い。 アザにならなくてよかったというところだ。 (手加減してくれたのかな。) 「まぁ初めてなんだろ? それにしてはよく出来たほうだぜ。まだ環がないんだからこんなもんだろう。よく頑張ったな。」 「浅葱の無茶ぶりにも答えて、ほんと可哀想じゃの。」 「あはは……。」 (浅葱さんと白椿鬼の優しさがしみる……。) 「よし、まあこれで大丈夫だな。そろそろ昼にするか?」 もうそんな時間かぁと零す。 「師匠、いつもの採ってくる。」 「灯織もついてゆけ。妾はここで待っておる。」 「え? わ、わかった。」 とりあえず白夜君の後を追う。 「何しに行くの?」 「……魚。」 「魚? ……あ、魚とりにいくのか。」 「あの、白夜君はあの荒地に住んでるの?」 「違うけど。」 「じゃあどこか目指してたりすんの?」 「別に。」 「……もっと愛想良く出来ないの?」 「出来ないね。」 スタスタと先を行ってしまった。 (うざ……。こっちだってそんな愛想の悪いやつと一緒にいたくないんだけど。もう気分最悪だよ。) ───────ソレカラソレカラ─────── ずーっと歩いて歩いて、後を付いてきた先にあったのは綺麗な河原。 冬の川はやはり冷たい。 しかし冬でも魚はいるもんで、少ないその魚たちを素手で捕まえる。 「下手くそ。」 「は……初めてだもん!」 「よ、いっしょ。っと。こうやるの。」 白夜君は説明してやってくれるが、同じ行動をしても捕まえられない。 白夜君はひょいひょいと捕まえてバケツの中に放り込む。 私は捕まえては逃がし、捕まえては逃がしを繰り返している。 「うぅ……ごめん。また逃がした……。」 「いいよもう、君は木になってる果物でも取ってきてよ。」 「ほんと、ごめん……。」 「はやく。」 申し訳なさで心が締め付けられていく。私は食べられそうな赤い果物を近くの林から探す。 「これ、りんごっぽい? あ、でもこれはまだ青いからやめとこ……。」 そんな独り言をぶつぶつと言いながら探す。手にいっぱい詰め込んで白夜君のいた方に戻る。 「そんなに見つけたの?」 「うん、食べれるかは分かんないけど。」 「キノコじゃないんだし青くなきゃ大丈夫でしょ。」 「白椿鬼に聞いてみよっと。」 「というか、魚も捕まえられないなんて。君は今までどうやって生きてきたの。」 「魚釣る時は竿を使ってたよ。」 「さお?」 「めっちゃしなる棒に糸つけて、その先に魚の餌付けるの。」 「なにそれ、聞いた事ない。随分文化が進んだ国に住んでんだね。」 「そう?」 「あ、あのさ。その、魚の餌ってなんなの?」 「えっとねー。」 さっきまであんなに愛想悪かったのに、いきなりたくさん聞かれたら驚くよりも嬉しくなるのが私だ。 「ちーっちゃいいも虫。ワームとかいうやつ。」 「え。」 私は近くの茂みに入り、草の上にとまっているいも虫を取った。 「こんなん。」 「ひっ……。」 「まあ、これよりも小さいけどね……って白夜君?」 白夜君は魚の入ったバケツを持ったまま固まっている。 私は白夜君の眼の前で手を振ってみる。 「おーい?」 すると、白夜君は真っ直ぐ後ろに倒れた。 ガシャーン! 「きゃ……! ちょ、ちょっと!」 バケツはひっくり返り、小石の上でぴちぴちと跳ねる。 「や、ちょっと、大丈夫!?」 私は慌てて彼の胸に耳を当てて心臓の音を聞く。 ちゃんと音は聞こえてきたので一安心。 私は後頭部を調べ、血が出てないか見る。 手のひらに赤い水たまりが広がった。 (うそ、血!?) 「ま、まっててね!?」 私は立ち上がり、慌てて浅葱さんを呼びに行こうとするが、肝心の帰り道が分からない。 近くならまだしも、あんな干からびた場所からこの川に来るまで相当歩いたのだ。 もう道なんて分からない。 (えっとえっと、こういう時はとりあえず止血、だよね。止血しなきゃ。) 私は服をちぎる勇気がなかったので服を脱いで白夜君の頭に巻き付ける。 (頭から血って、どう、しよう。血が多すぎたら死んじゃう……?) 「白夜君、ね、ねぇ、起きて、起きてよ。」 あんまり揺らしても悪そうなのでそっと頬を叩いて呼びかける。 (だめだ起きない。まずは血を止めることを優先しよう。) あまり清潔ではない巻き付けた自分の服をぎゅーっと引っ張る。 思いのほか、血はすぐ止まった。服や地面に大きく血溜まりが広がっていたので大出血かと焦ったがそれほどでもなかった。 (よかった。これは眠ってるだけなのかな?) 血だらけになった自分の服を川で洗う。冬の川は冷たく、人の体温を許してはくれない。 (はああああっっっ。もう指先の感覚がないよ。) その指先に息を吹きかけたり関節の間で挟んで温めたりする。 そしてその服を気絶している白夜君の額に乗せる。 (っていうか、熱出てるわけじゃないんだから額にのせる必要なかった?) ただ指先の感覚を失いかけてまでした事だ。もう後戻りはしたくない。 (……まぁいっか。) 寒さで体を震わしながら白夜君が起きるのを待つ。その間はとても暇なので私の好きな歌を口ずさむ。 「また月が昇る 太陽が沈んだ後 静かな夜がやってくる 今宵浮かぶは 美しき満月 皆で月見や月見や 十五夜お月様は見守っている」 おばあちゃんがいつも歌ってくれる子守唄。これを聞くと安心して、どんな不安な夜も乗り越えてきた。 おじいちゃんがいなくなった後、凄く悲しくて寂しくて怖くて、毎日夜になると泣いてた。 けどおばあちゃんが大丈夫だよって頭を撫でながら歌ってくれた。 大切な大切な、大好きな曲。 私は日が暮れて陽鬼が探しに来るまでずーっと歌っていた。 「灯織様……と白夜様? 大丈夫でしょうか?」 「途中で白夜君が気絶しちゃって、帰り道分かんないから起きるまで待とうと思ってたんだ……。迎えに来てくれて助かったよ。」 「そういう事だったのですね。時間にルーズな訳ではなくてよかったです。」 陽鬼は時間を気にするように空を眺め、影を眺め、そして私にお辞儀をして着いてくるよう言った。 私は自分と同じくらいのサイズの白夜君を抱えて陽鬼に着いていく。 その間の無言がなんだか気まずいので、何とか頑張って話題を振る。 「えっ、と……あ! 陽鬼は、なんか、好きな動物とか、いる?」 白夜君が重すぎて息切れが激しくなっていく。 「動物、ですか……。この世界ではあまり見ることはありませんが、強いて言うなら白くて美しい……うさぎ、ですかね。」 「うさぎ? それは、なんで?」 「……灯織様、白夜様を抱えるの代わりましょうか?」 「えっ! いやいやいやいや! そんな、危ないよ。陽鬼より大きい人だよ?」 「灯織様がお辛そうでしたから。」 「いやいや、気にしないで、これは、私の役目、だから。」 「そうですか?」 しかし陽鬼と話していたらなんだか身が軽くなってきた。 そしてついには何も抱えてないのかと錯覚するほどに軽くなった。 「あれ、まさか陽鬼何かした?」 「白椿鬼様のお力を少しお借りしただけです。お礼なら白椿鬼様に。」 「ふふ、陽鬼もありがとう。」 「……。」 陽鬼は白椿鬼と同じで顔色ひとつ変えようとしなかった。 (少しくらい照れてくれてもいいのに。) 「でも少しくらい重くないと落としてるのか分からなくなるからほんとに大丈夫だよ。」 「そうでしたか。失礼致しました。」 陽鬼の礼儀正しさに少し引くくらい。別に謝らなくてもいいのに、と思う。本当にこの2人は付き合いづらい。 「じゃあさ、陽鬼はなんで白椿鬼と一緒にいるの?」 「……私は白椿鬼様の式神のようなものですから。白椿鬼様にお仕えし、生涯お守りすることを誓いました。」 「しきがみ……?」 (うーん、漫画とかアニメの世界でしか聞いた事ないなあ。どんな意味だっけ……?) でもなんとなく、陽鬼は白椿鬼が大好きでずっとそばにいたいってそういう感じなのだと捉えることにした。 その後も頑張って話題を続ける私は、着く頃にはもうその場に倒れ出しまう程無かったのだ。
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