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第七話 二人
そして二人の仲良さそうな話し声で私は目を覚ました。そっと覗いてみると、浅葱さんは白夜君の頭の包帯を交換しているところだった。
(あれは……昨日巻いた包帯かな。それを替えてるのか。)
「しかしなー白夜。まだ慣れねぇのか?」
「慣れる慣れないとかの次元じゃないもん。嫌いなもんは嫌いだもん。」
「そんなに気持ち悪いかねぇ?」
「当たり前です! 見るだけでおぞましい。」
「そんなんでよく俺に着いてこようと思ったな。」
「……だって鍛えられれば何とかなると思ってたんだもん。」
浅葱さんはからかうように白夜君を笑う。
私は新たな弱点が見つかったのだとほくそ笑む。
「逆にあんな風に掴んで人前に見せれる神経がわかんないよ。」
「だとさー嬢ちゃん、隠れてないでまざろうぜ。」
(うわっバレてたか……。)
「お、おはようございます……?」
夜なのでおはようと言うべきなのかこんばんはと言うべきなのか迷って出た言葉だった。
「おう、おはよ! よく眠れたか?」
「はい、すみません寝かせてもらって。」
包帯を巻き終えた白夜君は呆れたように目をそらす。
「さ、嬢ちゃんも食べな。」
焚き火のそばで焼いていた棒に刺さった魚を浅葱さんが渡した。
「熱いから気をつけろよ〜。」
何もしてない私がもらうのはためらうが、気にするなと言いそうな浅葱さんの性格をよんで、お礼を言う。
「ん〜おいしい。」
ただ焼いただけの簡単な食べ物なのにどうしてこんなに美味しいのだろうと不思議に思う。
「嬢ちゃん、それ食ったら練習な。」
「んぐ……練習?」
「俺もサポートはするよ。だけど音の能力なんて俺にはよくわかんねぇからなあ。白椿鬼が帰ってきたらだな。」
「そういえば、白椿鬼はどこに?」
「さぁ? でもあいつはたまにあるだろ、ふらーっとどっかいって数日帰ってこないこと。」
「えっ……?」
(あ、そうか浅葱さんは私と白椿鬼が前から一緒にいると思ってるのか)
「あれ、嬢ちゃん最近知り合ったばっかなのか?」
「最近というか、3日前ですね。」
「3日前!? 3日前に会って今行動を一緒にしてるって事!?」
「えっ、あぁ、うん。」
白夜君が目を見開き大きな声で詰め寄ってきた。
「ほんと、君たち何が目的なの?」
「だから、天界に行きたいんだってば。」
いちいちトゲのあるような言葉を選ぶ白夜君にイラついて私も同じように半ギレで返す。
「ほーぉ、まあ色々あるんだなぁ。」
浅葱さんはすぐ帰ってくるさと私の背中を叩いた。
私は串刺しにされた魚をぱぱっと食べ終えて、一人で練習に臨むことにした。
(もーあいつには負けん。)
対抗心をメラメラと燃やして白椿鬼から教わった技を思い出す。
(ええっと、目を閉じなきゃなんだっけ?)
「手伝うぞ。上手く教えられるかは別だけどな!」
浅葱さんはかがんで小さな石ころを拾う。
「例えばこれだな。そのフルートで破壊してみるんだ。」
「は、破壊ですか!? ど、どうやって?」
「目を閉じ、イメージする。そのイメージを音符にのせる。それだけだ。」
随分簡単に言うけど、そう上手くいくわけもなく。
やはり破壊することは出来なかった。
(この世界の人たちは最初から能力を持ってるから、持ってない人に教えるとかそういう事苦手なんだろな。)
ボキャブラリーの少なそうな言葉を並べて浅葱さんは丁寧に教えてくれる。
とりあえずイメージの練習をし、浅葱さんに技を当てるということを目標に音を奏でる。
「まあ、環を持ってねぇからな。嬢ちゃんの力はその程度で十分だ。技の出し方は覚えたな?」
「えーと、こうですか?」
私は目を閉じて、さっき教えてもらった混乱のメロディーをフルートで奏でる。
「……やっぱ効いてないですか?」
目の前の浅葱さんに撃ったつもりが、平然とした顔をしている。
「やはりその程度しか届かねぇよな。」
「撃ててたんですか?」
「一応な。しかし距離が遠ければ届かないだろうな。環は嬢ちゃんの能力を最大限まで引き出す飾りとでも言っておくべきか?」
「あ、それとっても分かりやすいです。」
「だろ! さすが俺。」
この練習を通して、浅葱さんも人に教える能力が伸ばされたようだった。
白夜君は私を睨みつけた後奥の方で素振りを始めた。
「愛想の悪いやつですまんな。」
「い、いえ! まあ仕方ないこともありますから。」
「良い奴なんだ。仲良くしてやってくれや。」
「が、頑張ります。」
「はっはっは。」
(優しい人だなあ。でも仲良くするかはもう白夜君次第な気がするよ。)
私は十分頑張っているんだし。
「そうそう、嬢ちゃんの名前はなんて言うんだっけ?」
(あれ、言わなかったっけ?)
「灯織です。」
「そうそう、似てるから間違えそうになる。じゃあ環を創りに行くか!」
(似てる?)
「わーい! やっとだー!!」
「えーと、その環の話なんだがな、この近くに鬼族の国があるのはわかるな?」
「……分かりません。」
「それじゃあ白夜と一緒に行ってこい。」
「えっ!? なんで僕なの!?」
いつの間にか浅葱さんの後ろに立ち、とても不満げな声を出す白夜君。
「刀、折れただろ? 灯織に紹介する人物は柳っていう刀鍛冶だ。環の鍛冶も任せることが出来るからな。都合いいだろ?」
「そりゃあ……そうだけど……。」
言葉を濁す白夜君。なんだかそこまで拒否されると傷つくのだが。
「あ、あの、浅葱さんは、こないんですか?」
なんとか二人だけという空気から逃れたくて、私は浅葱さんにすがりつく。
「んー、まあ俺はちょっと用があってな。」
「そ、そうですか……。」
「じゃあ今日はもう遅い。体を休めるんだ。明日柳のところに向かってくれ、な?」
「はい……。」
私は浅葱さんに用意してもらった薄い藁のベットで眠る事にした。
しかし先程まで眠っていたせいで、眠気が全くない。
(少しだけ、一人で練習してみよう。)
ばあちゃんの大切な人ってのがどんな人だかは分からないけど、早く助けて、そんでばあちゃんを安心させたい。
そのためにはいち早くこの能力を使いこなせるようになって、もし襲われても大丈夫なようになるしかない。この世界は物騒らしいから。
(一体どんな人なんだろう。ばあちゃんの大切な人。)
白夜君が木に向かって木刀を叩いていたように、私も木に向かって攻撃してみることにした。
フルートの音で周りを起こさないよう、私は少し離れたところで練習することにする。
(大切なのはイメージ……。うーん、難しい……。)
まずは簡単そうな盾とかをイメージしてみる。これが具現化したら成功だ。
「わぁ!! 小さいけどできた! ……でも弱そうだなあ。」
触れたら壊れてしまいそうな、そんなガラスの様な盾にそっと人差し指を当てる。
それは意外に暖かく、ガラスのようなパキッとした触り心地ではなく毛布のようなふわっとしたものだった。
(お日様みたいに暖かい……。)
もしかしたらこれは音ではなく光の能力なのかもしれない。
フルートを使わず能力を出そうとすると光の能力になるのだろうか?
(あ! じゃあこれとか……!)
私はこの暗い夜を照らす光を創り出そうとした。
指先に灯ったのはイメージしたよりも随分小さい光。
(輪がないとこんなもんなのかなあ。早く欲しいな。)
ただ輪を取るのには白夜と2人きりの苦痛な数時間を過ごさなければならない。
辛い、あまりにも辛すぎる。
せめて浅葱さんとか白椿鬼がいてくれたらと思うと更に悲しくなってきた。
(なんでこんなに嫌われるかなあ……。)
私は昔花畑で出会った男の子のことを思い出す。
凄く優しくて、かっこよくて、憧れのお兄ちゃんみたいな存在。
これはお母さんとの思い出でもある。お母さんがいつも私を花畑に置いていって、夕方くらいに戻ってくる。
戻ってきた時はぎゅっと苦しいくらいに抱きしめてくれるのが好きだった。
その花畑で出会ったから、絶対に忘れられない思い出なのだ。
(あの子、今頃何してるんだろうな……。)
というか、あんな幻想的な一面花畑なんていう場所、元の世界ではあっただろうか。
私が知らないだけであるのだろうか。
(そういえば、あの子はなんでいなくなっちゃったんだっけ。)
もう一度会ってみたいとは思うものの、この世界にいる限りできないのだから早く出ねばと思った灯織は、技の練習に更に時間を費やした。
(あぁ早く帰りたいな。それにお風呂入りたい。)
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