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第八話 色々なココロ
「灯織様、灯織様。」
「ん、んん……。」
「おはようございます、灯織様。」
「わ!!? ……あれ、陽鬼? 白椿鬼は……。」
「白椿鬼様はまだお戻りになりません。その代わり私が戻ってまいりました。」
「ほんと! じゃあ一緒に……!」
「はい、参ります。」
「やったぁ……!! 実はここだけの話、なんか嫌われてるみたいでさ……。」
悲しくなった私は俯いて表情を隠す。
「白夜様は他の方との接し方が分からないだけですよ。決して灯織様は嫌わてるわけではないです。嫌われる要素はないじゃないですか。」
「陽鬼……。うん、ありがとう、陽鬼大好き!」
「や、いえ、そんな、私はそんな事を言われる筋合いは……。」
陽鬼が照れるようにして俯いた。白椿鬼みたいに冷たくて何も感じないような子だと思ってたけど、そんなこと無かったんだ。
「陽鬼さん、あの人起きた?」
「は、はい、ただいま。」
「じゃあ早く行こ。」
私は飛び起きて、寒い朝の風に身体を震わせた。
「どのくらいで着くの?」
「1日もかかりません。」
その言葉を信じて歩き始めてから、もう2時間は経つ。
(この世界の2時間って歩いてすぐなのか……。田舎とはいえ、元の世界は便利だったんだな……。)
バスは1時間に1本でもありがたいことだったんだと改めて実感した。
そのまま白夜君と陽鬼を追いかけるように歩いていくと門と壁に囲われた大きな国に着いた。
門の前まで行くと、門番の男二人が持っている槍を斜めに重ね、話しかけてきた。
「通行証はあるか?」
「……。」
白夜君は今朝浅葱さんから預かったという通行証を見せる。
「よし。通れ。」
門番が遠ざかったあとで私は緊張の糸を解く。
「……緊張したぁ。」
「鬼の国は全てあの様な感じです。」
「そうなんだ。入ったことないからなあ。」
「ほんと君、今までどうやって暮らしてきたの。」
「いや、はは。」
白夜君にしかめっ面をされたが、何とか誤魔化して陽鬼と他愛もない話を続ける。
数分歩いたあと、白夜君は辺りをキョロキョロとしはじめた。
「その、柳さんはどこにいるの?」
「あー……。」
「……? どしたの?」
「柳先生の店知らない。」
「え?」
「つまり……柳様の居場所が分からないと言うことでしょうか。」
「うん。」
私はどうしようかと頭を悩ませていると、白夜君の足がだんだん遅くなり、いつの間にか陽鬼の背中に隠れるように後ろを歩いていた。
「どうしよう。」
「人に話を聞かねばですね。」
「じゃあ皆で話を聞いて探そうか。」
すると白夜君が足を止めた。
「白夜様、何処か調子を悪くされましたか?」
「いや、えーと、うん……。」
「それでは少しお休みになられますか?」
「あ、うん。そうする。」
「それじゃあ陽鬼、二人で探そっか。」
「いや、やっぱまって。僕も、探す。」
「無理しなくていいよ。体調悪いんでしょ?」
「えーっと……。」
「何……」
私は今朝陽鬼が言っていた言葉を思い出した。
『白夜様は他の方との接し方が分からないだけですよ。』
「ねぇ白夜、一緒に行こ。」
「えっなんで。」
「いいの、私一人じゃ心細いもん。」
「ん……じゃあ、行く。」
「それでは私もご一緒します。」
「あはは、結局みんな一緒だね。」
「まあ? その方がはぐれなくていいしね?」
白夜がそっぽを向いて早口で言った。
(そっか、そういう事か。白夜君との接し方がわかってきた気がする。)
「すみませーん。柳さんって人知りませんか?」
「柳ぃ? 柳ってあの鍛冶屋の柳か? お嬢さんあいつに会うつもりかい? やめた方がいいよ。鍛冶屋なら他にいっぱいいるぞ?」
「いえ、私たちは柳様に用がありますので。」
陽鬼が横から顔を出す。
「んーあいつは変わりモンってか、偏屈ってか……。」
「それでもいいんです!」
「そ、そうかよ。あいつなら奥の方に小さな店建ててると思うぞ。」
お店の人は私の言葉に少ししりごみした。そして焦るように向かって右の方向を指さした。
「ありがとうございます。」
陽鬼が礼をしたのに習い、私も慌てて頭を下げる。
「陽鬼は礼儀正しいね、私たちも見習わなきゃ。」
陽鬼からは私が思った通り、「これは白椿鬼様にしつけられたので」なんて言葉が返ってきた。
(あれ?)
隣に陽鬼はおらず、白夜君がキョロキョロしていた。
私も辺りを見回すと、陽鬼が店の前で立たずんでいるのを見つけた。
「あれ、陽鬼……?」
陽鬼が見ていたのは可愛らしいアクセサリー。
花の模様が象られたものばかりで、女の子が好きそうな髪留めばかり。
「はっ、白夜様、灯織様。すみません。」
「え、いいよいいよ。見ていきなよ?」
「いえ、こんな物に時間を割いている暇はございません!」
陽鬼は感情を隠すように咳払いし、私たちの前を歩いた。
(陽鬼がこういうのに見惚れるなんて思わなかった。見た目通り小さな女の子なんだ。)
陽鬼や白夜君、二人の色んなところが見れてひとりでに仲良くなった気分だ。なんだかとても嬉しい。
確かに陽鬼は洋服も可愛らしいものばかりで、頭は怪物の頭蓋骨がのっかっているようにちょっと不気味なところもあるが、その隣には綺麗な紅い椿も添えられている。
(花が好きなのか。その椿も白椿鬼からなのかな?)
そういえば白椿鬼も同じく髪飾りとして椿を付けていた。
(おそろなんだ……。今気づいた。)
おしゃれという物に関して全く気が向かない私はそういう所に鈍感なのだ。
「ここでしょうか。」
陽鬼に対して可愛いなぁだとか色々考えているうちに着いたようだ。
その家の見た目はボロボロ。すぐ奥に森がある。
(確かにこれは変わり者と言えるかも。)
ここら辺には誰もいなければ何も無い。もちろん家すらも。
こんな人気の無いところに居たら喋らなすぎて死んでしまいそうだ。
「あ、あの、こんにちは……!」
ガタガタと鳴る重い戸を横に押しよけ、中を確認した。
そこにはクマのような大男が座っていた。
髪の毛はボサボサ。髭も生えまくり。風呂に入っているのかと疑うレベルの臭さ。
「きゃ、きゃあ!!?」
熊みたいな大男が立ち上がり、私は思わず声を上げてしりもちをついた。
「だれだ。」
私の悲鳴に、たった三文字で言葉を返してきた。
「浅葱様のご友人と聞いて参りました。陽鬼と申します。」
「浅葱右京の弟子、白夜です。」
「あぅ、ひ、灯織です!」
「柳御煉寺だ。お前、浅葱の弟子と言ったな?」
凄いしかめっ面をしたので、私も白夜君も怒られるのかと表情が固まる。
しかし柳さんは「あいつの周りにはちっこいのが何匹もいたからそのうちの一人か?」と、白夜君に向かって問うた。
「は、はい! そう、です。」
「あの、柳さん。単刀直入ですが、私の輪を創って欲しいんです……。」
「僕も柳先生に、刀を創って頂きたく、師匠から紹介にあたりました。」
「はぁ……。俺なんかよりもっと腕のいい奴がいただろうに。」
柳さんはなにやらボソボソと言ってため息をついた。
「僕も、僕の師匠も、柳先生に創って頂きたいんです。」
白夜君は地に頭を下げた。
「別に創らんとは言ってない。」
「……ありがとうございます!」
「そこの嬢は魂のカケラ出しな。弟子は刀見せろ。」
「じ、嬢……。」
私は初めての言葉に戸惑いつつ、白椿鬼に言われた通りのことを話す。
「あの、私……カケラ持ってなくて。と、とって? 欲しいんです。」
カケラを取るとは一体何なのか私には分からないが、白椿鬼が言っていたんだ。間違いはないだろう。
「……。」
明らかに嫌そうな顔をされた。
「はぁ……。そこの陽の鬼。手伝え。」
「かしこまりました。それでは柳様、少し広い場所に。」
私は部屋の奥に連れて行かれた。白夜君も後ろからこそこそと着いてきた。
部屋に着くと、陽鬼と見合わせる形に立たされた。
「音魂、光魂、汝の主から離れたまえ。主の力を引き出すのだ。」
なんだか厨二病みたいな言葉を並べて、聞いてるこっちが恥ずかしくなる。
しかし陽鬼がその言葉を唱えた二秒後、胸の奥が熱くなる。
かと思ったら、今度は全身から力が抜け落ち、座り込んでしまった。
そして、同時に意識を失ってしまった。
──────────
「これが嬢の能力か。随分弱いな。」
陽鬼の持つそれを柳はまじまじと見つめる。
「柳様。早く触って下さらないと灯織様が戻らなくなってしまいます。」
ふわふわした綿あめのようなものが薄く光って陽鬼の両手に浮いている。
柳はその一部分を掴むと、陽鬼がまたなにやら唱えだした。
「カケラとなりて環に力を。」
その言葉を発した途端、風が巻き起こり辺りのものを吹き飛ばす。
陽鬼の両手からは光が飛び散り、倒れている灯織の方へと急いで戻るように帰っていく。
「はー、家でやるんじゃなかった。」
柳はまた何かを呟いて怪訝な顔をする。
ひと通り風が収まった後、陽鬼の手のひらには光り輝く鉱石がふたつ、寄り添うようにのっかっていた。
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