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木戸君の視線が私の鞄に止まりました。
「入江さん、やけに大きい荷物持ってるね」
「絵を持ってきたから」
答えると木戸君は怪訝な顔で私を見ました。私は黙って鞄から絵を取り出します。昨日美術室に寄って持ってきた地獄を描いた絵です。
「入江さんの絵じゃん。いいの?教室まで持ってきて。誰か来るかもよ」
「木戸君にあげる」
「え?」
私は大きく息を吸い込み、覚悟を決めて言いました。
「この絵、木戸君にあげるよ。見せたかったら見せればいい。佐山さんたちのときみたいにメールで流してくれてもいいよ。それでみんなに気味悪がられたって怖がられたって構わない」
構わないなんて大嘘です。私は周りの評価が気になって仕方ありません。この絵を見られるなんて死ぬほど恐ろしいことでした。
それでも私は木戸君の誘いに乗るわけにはいかないのです。期待を裏切るのが怖くたってこれだけは断らなければなりません。
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