1.白いヒーロー

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1.白いヒーロー

まっ暗な、闇の中。 閉め切った地下の空間に、観客たちがひしめいている。 ざわめきと、(せき)ばらい。 パイプ椅子(イス)のぶつかり(きし)む音。 放送設備が「キーン」と鳴って、アナウンサーの声が流れる。 ——レディース! エ〜ンド、ジェントルメン!! 「今宵の『柴又(しばまた)ビッグブーツ』! 第一試合を開始しますッ!」 照明がパッと()くと同時に、 プロレス用の四角い「リング」が大歓声に包まれる。 「選手入場! 青コーナー……」 身長198センチ、体重113キログラム。 「闇の狩人(ハンター)」、「レスラー(ごろ)し」! ——デビィィィイル、タイガー!!! 炸裂(サクレツ)音を背中に受けて、まずは悪役(ヒール)の登場だ。 全身、黒いコスチューム。 顔をすっぽり覆い隠した覆面(マスク)の頭に三角耳が、 頬には(シマ)模様が付いている。 デビルタイガー、悪役らしく、 わざと大股、肩を振り振り、リングロープをくぐり抜けると、 コーナーポストの上に飛び乗り、「勝つのは俺だ!」と雄叫びあげた。 「つづいて入場! 赤コーナー……」 身長167センチ、体重67キログラム。 「われらがヒーロー」、「(ワザ)のデパート」! ——ヤマネ〜コ〜、マ〜ス〜ク〜!!! 全身、ベージュのコスチューム。 やや細身、やや猫背気の少し小柄なファイターが、 ひょこひょこ歩きでリングに上がると客席からやや笑いが漏れる。 ——さあさあ、両者、にらみ合い。 審判(レフェリー)、凶器のボディチェックを。 OKならば、握手を済ませ、 いよいよ『ゴング』というとこですが…… 「おおっと、奇襲! タイガー奇襲っ! これは波乱の幕開けだああ!!」
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