1.白いヒーロー

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……波乱もなにも、それが台本(ブック)だ。 真剣勝負に見せかけた、プロレスという(ショー)の台本。 (は卑怯なデビルタイガー) ……そういう「役」なら演じるまでだ。 握手に応じるフリをしつつも、 不意打ちで(エルボー)を叩き込み、 ひるんだ相手の頭を(つか)んで頭突き、(ヒザ)蹴り、ビンタを入れる。 観客からは大ブーイング。 そこで初めてゴングが鳴って、「試合開始」という展開だ。 「外道(げどう)ですっ、デビルタイガー! ルール無用の大暴れ!」 ブーツの中に忍ばせていた、「スパナ」を使って攻撃するも、 審判(レフェリー)に取り上げられるタイガー。(ボディチェックとはなんだったのか) ヨロヨロになったヤマネコマスクの身体(カラダ)をロープに向かって投げて、 跳ね返って来るところ目がけて「豪腕(ごうわん)ラリアット」をブチかます! ……だが、その丸太のような打撃をぎりぎり(かわ)したヤマネコマスク、 振り向きざまに飛び上がり、 「おおっと、『回転浴びせ蹴り』っ!」 白いマットがズシンと響く。 (先輩からの大ワザは、当たっていようが当たっていまいが『()いている』ように振る舞うものだ……) 頭部を押さえて苦しむ俺に、 ——オラ! どうした、かかってこい! ——おまえの根性はその程度か! (リキ)の入ったアナウンサーが、ヤマネコ目線でセリフを叫ぶ。 「ヤマネコマスク、ブチ切れました! 怒りのチョップで反撃です!」 ビシッ、ビシッと手刀(しゅとう)の嵐。 ロープ際まで追い詰めたなら、 ついに必殺「ドロップキック」が飛び出す場面がやってきた。
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