1.白いヒーロー

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控え室に戻って来てからも、 山根(ヤマネ)先輩は不機嫌だった。 痛めた背中をぺろんと出して、俺に湿布(シップ)を貼らせながらも、ずっと説教を続けていた。 「おい、寅二(トラジ)、わかってんのか? おめーは大事な先輩によォ、人前で(ハジ)をかかせたんだぞ?」 「はい……すいません……」 ——いーや、おめーはわかっちゃいねぇ。 しみじみと、首を振り。 先輩は悲しそうに(なげ)いた。 「おめーはオレに、『海よりも深く山より高い』、デッケぇ『借り』があるんだぜ?」 「はい……わかります……」 もちろん、それは理解していた。 ……2年前。 柴又駅で、身寄りのなかった自分を拾い、食べ物と寝る場所とこの仕事を与えてくれたのは先輩だ。 俺はいつだってその恩返しをしようと努力しているのだが……なかなかうまく伝わらなかった。 「いーよいーよ、どーせ今よりちょーっと人気が出たらすぐ、オレのことなんて邪魔(ジャマ)邪険(じゃけん)にしちまうんだろ、わかってる。それが運命(さだめ)だ、悲しいねぇ……って、(イテ)テテテ、なにしやがんだっ!」 ……悪気(わるぎ)があったわけじゃない。 話をまじめに聞くあまり、手元が狂って湿布を一枚、 貼り間違えて、剥がそうとして、 それまでキレイに貼っていたやつもまとめて「ベリッ」とやってしまった。 「すいません……」 「(コロ)す気か! やい、寅二(トラジ)! 反省だッ!」 山根(ヤマネ)先輩が部屋の隅から(つか)んできたのは太い棒。 荒く削った(カシ)の木に、ビニールテープをぐるぐる巻いた、 「闘魂精神注入棒(とうこんせいしんちゅうにゅうぼう)」。 そいつで正座する俺の肩や、背中をとにかくビシバシ殴る。 「てめッ……このっ……(うす)らバカっ……!」 ——()()はデケぇ図体(ずうたい)だけかっ!! ……先輩の、言う通り。 俺の体は頑丈だから、実は大して痛くない。 むしろこんなバカな俺のために、こんなに苦労を掛けているということが何より残念だった。 「あーあー、やめてやりなって。(トラ)ちゃん、カワイソーじゃない」
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