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控え室に戻って来てからも、
山根先輩は不機嫌だった。
痛めた背中をぺろんと出して、俺に湿布を貼らせながらも、ずっと説教を続けていた。
「おい、寅二、わかってんのか? おめーは大事な先輩によォ、人前で恥をかかせたんだぞ?」
「はい……すいません……」
——いーや、おめーはわかっちゃいねぇ。
しみじみと、首を振り。
先輩は悲しそうに嘆いた。
「おめーはオレに、『海よりも深く山より高い』、デッケぇ『借り』があるんだぜ?」
「はい……わかります……」
もちろん、それは理解していた。
……2年前。
柴又駅で、身寄りのなかった自分を拾い、食べ物と寝る場所とこの仕事を与えてくれたのは先輩だ。
俺はいつだってその恩返しをしようと努力しているのだが……なかなかうまく伝わらなかった。
「いーよいーよ、どーせ今よりちょーっと人気が出たらすぐ、オレのことなんて邪魔で邪険にしちまうんだろ、わかってる。それが運命だ、悲しいねぇ……って、痛テテテ、なにしやがんだっ!」
……悪気があったわけじゃない。
話をまじめに聞くあまり、手元が狂って湿布を一枚、
貼り間違えて、剥がそうとして、
それまでキレイに貼っていたやつもまとめて「ベリッ」とやってしまった。
「すいません……」
「殺す気か! やい、寅二! 反省だッ!」
山根先輩が部屋の隅から掴んできたのは太い棒。
荒く削った樫の木に、ビニールテープをぐるぐる巻いた、
「闘魂精神注入棒」。
そいつで正座する俺の肩や、背中をとにかくビシバシ殴る。
「てめッ……このっ……薄らバカっ……!」
——取り柄はデケぇ図体だけかっ!!
……先輩の、言う通り。
俺の体は頑丈だから、実は大して痛くない。
むしろこんなバカな俺のために、こんなに苦労を掛けているということが何より残念だった。
「あーあー、やめてやりなって。寅ちゃん、カワイソーじゃない」
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