第2戦:それは狂人たりて命を喰らう者とならん

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 ニコラがガウルを見つけたのは四十分ほど前,空から地形と参加者を把握している時だった。その時に物を破壊し徘徊しているガウルが目に付き今までずっとその様子を探り続けている。  そうニコラは四十分もの間ずっと空を飛んでいるのである。  そんなにも長時間飛べるのは天恵を使っているからではない。それは鳥人ならば誰もが出来る芸当である。  鳥人は基本的に寒さに弱いため,冬が来る前に暖かい場所に渡りを行う。目的の場所を目指して何千何万キロも。海の上にいれば休憩などできないし,もし一人だけ休憩しようものならそのまま群れとはぐれてしまう。  そんな大移動の時の過酷さに比べればたかが四十分程度,朝飯前だった。  勿論ただ見ているわけにもいかない。いつかは戦わなければならないのだが,今はまだその時ではないと高みの見物を決めていた。  ただそれは戦いを有利に進めるため,というわけではなかった。単なるニコラの趣味だった。  他人が困っている様子を見るのが三度の飯よりも好きだという彼女は,ガウルのいら立つ様子を見て楽しんでいたのだ。  だが幸いにもその趣味はこのゲームにおいては事を有利に進めることが出来るものだった。  いら立った状態で戦えば冷静さはなくなる。そうすれば必然的にミスが多くなるものだ。  勿論そんな考えはニコラにはなく,単なる偶然だが今この時点ではニコラが一つ有利な状況だった。 「でもねぇそろそろ飽きてきちゃったなぁ。そろそろ始めようかな」  ニコラは体を傾け急降下した,標的を補足して。目にもとまらぬスピードでの急降下。落下までの時間はわずか数秒。  地面すれすれで体を立て直したニコラはスピードを保持したまま,獲物を探しているガウルの身体に爪を食い込ませた。 「ガァッ―――!」  だがその強襲はギリギリのところでかわされ,肩の肉を少しえぐる程度だった。 「フフフフフ,ざーんねん。でも楽しい楽しいショーはこれからだよ!」  再び上昇したニコラはもう一度ガウル目掛けて強襲した。先ほどに比べれば速度は劣るがそれでも尋常ならざるスピード。  今度は首を裂きにいった。 「そぉれぇ――――――」  腹部に凄まじい衝撃がぶつかった。  ニコラはそのままバランスを崩すと地面へと墜落した。 「グエェェ―――ガハッゴホッ――――――ッ」  嘔吐した。だがそんなことはどうでもいい。  ニコラは立ち上がると自身を墜落させた相手を睨んだ。 「よくも……やってくれたな」 「ハハハハハハ,やっとだ……やっと戦える。待ちわびていたんだ。楽しませろよ鳥」 「黙れ下等生物が―――」  ノーモーションからの蹴りがニコラに直撃した。 「――――――――――――――――――ッ!」 「ハッハァ!」  防御も出来ず受け身も取れずニコラはそのまま壁へと激突した。  凄まじい威力だった。壁は粉々に砕けニコラは瓦礫の下敷きとなった。  予備動作は一切なかった。なのに驚くほどに凄まじく速い攻撃。  ニコラでなければ一撃で勝負は決していたかもしれない。 「君嫌いだ私」  瓦礫の山から出てきたニコラは無傷だった。直撃した箇所に傷は一切なかった。  それにはガウルも驚いたのか呆気に取られているようだった。  その様子を見たニコラは自慢げにそして得意そうに自身の天恵について語り始めた。 「私の天恵は『身体硬化(ボディーガード)』。君のやわな攻撃じゃ傷一つ付けられないのさ。もっとも最初の一撃は硬化が不十分で危なかったんだけどね」  ニコラの天恵は文字通り身体を硬質化させるという能力。たとえ爆弾を投げ込まれようとも無傷で生還できる。 『硬い』―――それだけに特化した能力だがそれゆえに強力な武器となる。  先の急降下攻撃がもしも決まっていればガウルの首は吹き飛んでいただろう。  速度が乗った攻撃というのはそれだけで脅威だが,それを生身でやるというのは本来ならば不可能である。  何故ならばスピードに耐えることが出来たとしても,攻撃を当てた際にその衝撃で自身の身体にまでダメージが来るからである。  しかし『身体硬化(ボディーガード)』を得たニコラならば骨の髄まで硬質化させることで自身の身体を刃として使うことが出来る。 「もう油断はしないから,さっさと私に殺されてよ」  今度はニコラが先に動いた。  硬質化した手がガウルを襲う。その攻撃を避けて受け手を繰り返す。 「ほらほらぁ,どうしたの?反撃してみなよぉ」  顔面を狙った一撃―――ガウルは後ろに跳躍し回避すると,手を大地に置き,四足歩行の体制となった。  ガウルの―――獣人の戦闘態勢。本気になった。 「ガルルルル……」  ガウルは低く唸ると大地を蹴った。  爆発したような音と共にガウルの姿が消える。  次の瞬間―――ニコラは宙を舞っていた。
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