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何が起きたのかは分からない。気が付いた時には空高く舞い上がっていた。
遅れて顎に激痛が走る。それで自分が攻撃されたのだと分かった。
先ほどの二回の攻撃とは比べ物にならないほどの威力。『身体硬化』がなければ身体は粉々に吹き飛んでいただろう。
ニコラは空中で体制を立て直すと逃げるように上昇した。
「なんなのなんなの,アイツ―――」
天恵を得たことで強気になっていた。無敵になったと思っていた。
まさか『身体硬化』が破られるなんて思いもよらなかった。
実際には破られたわけではないのだが,ダメージを受けた―――その事実がニコラの心までも砕いてしまった。
その結果,『逃げ』逃げという選択肢以外がニコラの中からなくなってしまった。
「勝てるわけがない―――殺される。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない――――――」
轟音が聞こえた。その瞬間―――
「ハァア~,逃げるなよ。楽しくなってきたばかりだろ!」
目の前にガウルが現れた。
どうやってここまで―――空を飛べる者でないと到達できないほどの高度だった。
だがそんな疑問に答えてくれる者はここにはいない。
いるのはどうしてここにいるのかわからない獣人だけ。
そしてその獣人は落下する前にニコラにしがみついた。
「クッ……は,放せ。放せぇぇぇ!」
「ハハハハハハ,放すわけねぇだろ」
ガウルは大きく口を開けるとニコラの肩に噛みついた。
勿論『身体硬化』で硬化しているニコラの肩を簡単に噛み千切ることはできない。
だが構わずガウルは噛み付き続けた。すると―――
「アアアアアアアァァァァァ!」
肩の肉が千切れ,血が噴き出した。
それによりバランスを崩したニコラはガウルもろとも墜落を始めた。
体勢を立て直そうとしようにも,片腕がうまく動かせない上にガウルがしがみついている。
このままでは地面に叩き付けられてしまう。たとえ硬化していても無事で済むとは限らない。
死にたくない―――ならばやるべきことは一つ。墜落するまでにガウルを引き離すこと。
ニコラは動く右腕でガウルの左目を衝いた。
「ガアァァッ!」
悲痛な叫び声が上がる。だがなぜかその表情は笑顔だった。
何故この状況で笑えるのか―――怖い怖い怖い怖い怖い―――ニコラの全身に恐怖が巡った。
「嫌ぁーーーーーーーーーー!」
暴れて暴れて暴れまくった。目の前の得体のしれぬ怪物を引き離すために。
だが離れない。何をしようとガウルは不気味な笑みを浮かべ離そうとしなかった。
「ハーハッハッハーッ,ハハハハハハ―――――――――」
「お兄ちゃん助けt―――――――――」
そして悲しくも二人は轟音を立て墜落した。
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