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「ドォラアアァァァァァァァァ!!」
拳が顔面をとらえる。その威力はすさまじく,吹き飛ばされるとブロック塀を壊し家の外壁をも壊した。
「イイ……イイぞォ!もっとだ,もっとよこせェ!」
しかしその攻撃が効いている様子は見られなかった。
鬼人カルメールVS獣人ガウル―――開始数分にして戦いは白熱を極めていた。
ガウルは鼻血を拭うと周囲の瓦礫が吹き飛ぶほどの強さで大地を駆けた。
そしてカルメールの喉元目掛けて爪を振るった。
半馬人の腕を一瞬にして切り裂く程鋭利な爪,カルメールも喰らえば首と胴体が分かれてしまうだろう。
しかし,カルメールは逃げる素振を見せなかった。
真正面から組み合ったのだ。巧みに指を絡ませ、ガウルの左手を封じると自由の効く左でガウルの鳩尾を殴った。
鳩尾だけではない。顔面・胸、殴れる部位を殴り続けた。そして、足元のおぼつかないガウルの手を引っ張るのと同時に顔面を殴り吹き飛ばした。
まるでボールのように何度もバウンドをすると、ガウルは地に伏した状態でピクリとも動かなくなった。
勝った―――などとカルメールは思わなかった。確かに手応えはあった。だが、絶命させるまでには至っていないと分かっていた。
「クククッ…ハハハ…ハーハッハッハッ!」
笑っていた。地に伏した状態でガウルは歓喜の声をあげていた。
ひとしきり笑うとゆるりと立ち上がり,満面の狂気を感じさせる笑みを見せると四足状態―――右手のない腕を地面に突き刺し無理やり四足状態―――になった。
そして「ガルル」と低く唸ると次の瞬間―――
「ッ―――」
何かが触れたと感じた瞬間カルメールは吹き飛ばされていた。
「ガハッ―――ガハッ―――……ハァハァ」
内臓が損傷したであろう程の痛みが身体を走った。
攻撃を喰らった―――油断も慢心もしていなかったのに。一体何故―――
その答えにカルメールはすぐさまたどり着いた。嘘であってくれと声を大にして言いたくなる答え。その答えは―――
「アンタ……今まで本気じゃなかったんか」
想定していなかったわけではない。だがそれは最悪の展開だった。
立場の逆転―――今この瞬間からカルメールは狩る側から狩られる側になった。
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